GCPSO−クロウ編−
|
片桐 / 著 |
| 断末魔の咆哮を銀閃が斬り裂いた。 「お見事」 漆黒のフォルムのスパイダーは、目の前でガル・ダ・バル島高山地区に棲息する猿型エネミーであるソル・ギボンを一刀両断したクロウの手並みに対して感嘆の声をあげた。 クロウは刀身に付着した血糊を振り払いながら苦笑。 スパイダーはクロウが持つ一振りの太刀を見て両肩をすくめた。 「凄い太刀だな」 クロウは頷く。 「リライアンスさんがボクの為に造ってくれた太刀なんです。リライアンスさんが鍛え、デュオさんが魔力を負荷させた代物なんです」 クロウは嬉しそうに太刀を見つめた。 「で、名前は?」 スパイダーの問いに、クロウは首を軽く振って答えた。 「決めていません」 太刀を鞘に収めながらクロウは依頼遂行期限が今日の日没までなのを思い出した。 「時間がありませんね。さっさと依頼を済ませましょう」 クロウの言葉にスパイダーは神妙に頷く。 二人がハンターズギルドから依頼された内容は『高山地区に棲息する未確認エネミーの調査及び駆除』であった。 ガル・ダ・バル島には未知の生命体が多数棲息していることはラボが確認している。 二人はエネミー群を蹴散らしながら、未確認エネミーが目撃された地点を目指した。 目撃地点に到着した二人はターゲットと思しきエネミーを見つけて愕然としてしまう。 その生命体は二人の想像を遙かに超えていた。 「あれ、だよな?」 スパイダーは息を呑んだ。 「そうでしょう・・・・ボクの予想を超えていました」 クロウも息を呑んだ。 二人の目の前にいるのは鋼の装甲を纏ったギ・グー。 その凶暴な真紅の双眸が二人を冷ややかに見下ろしていた。 「あれじゃあ、ギ・グーというよりメタルギ・グーだな」 スパイダーの言葉にクロウは頷いた。 「その呼び名は正しいですね!」 不意に襲い掛かる殺気の塊を、二人は左右に別れて回避した。 ギ・グー、いや、メタルギ・グーがその巨体を生かして突進してきたのである。 メタルギ・グーが通り過ぎた後の地面はその軌跡に従って深くえぐれていた。 「厄介な奴だなぁ!」 スパイダーは弾丸のように突っ込んでくるメタルギ・グーを紙一重で避けながら、アイテムボックスからソウルパニッシュを喚び出して猛然と振り下ろした。が、振り下ろされた鎌刃はメタルギ・グーが発生させた七色の障壁によって弾かれる。 軽く舌打ちしながらスパイダーは後へと跳んだ。 「クロウ!」 スパイダーが顔を上げると、いつの間にか跳躍していたクロウが、メタルギ・グーの死角から、黒のフォトン集束出力機である〈ジル・ド・レ〉を振り上げているところだった。 漆黒に染め上がったラヴィス=カノンに形状が似ている〈ジル・ド・レ〉が風切り音と共に振り下ろされる。 漆黒の刃が七色の刀身と激しくぶつかり合った。 「でやぁぁぁぁぁぁ!」 クロウの雄叫びと共に〈ジル・ド・レ〉が七色の障壁を斬り裂く。が、メタルギ・グーの強固な金属装甲に阻まれた。 着地したクロウはスパイダーの顔を見て首を横に振る。 どうやら、大したダメージを負わすことは出来なかったようである。 「スパイダーさん!アイツの様子が!」 空中で急旋回したメタルギ・グーの頭部が顎のように大きく上下に開いた。 「避けろ、クロウ!」 本来なら混乱誘導断が放たれるべきその場所から放たれたのは白熱の閃光であった。 「あの野郎、生体レーザーを放ちやがった」 横でクロウも〈ジル・ド・レ〉を正眼に構えながら「厄介ですね」と呟いた。 「仕方ない。一か八かでアレをやるか・・・・・・」 スパイダーはアイテムボックスから特殊なアドスロットを喚び出して、それをソウルパニッシュに取り付けた。 「MC〈ルシフェル〉装填確認。インストール開始・・・・〈闇鎌刃〉起動成功」 抑揚のない機械音声と共に、黒のフォトン集束制御装置であるMCシリーズの一つを取り付けたソウルパニッシュが異形の姿へと変化した。 紫紺の光を輝き放つ実刃型のソウルパニッシュ強化型―――〈闇鎌刃〉である。 「行くぜぇ!〈闇鎌刃〉エクストラ攻撃!」 スパイダーが漆黒の閃光と化した。 ヒューキャストが理論上出すことが可能な最高速機動―――超音速機動である。 亜光速に匹敵する漆黒の閃光が七色の障壁を斬り裂いた。 「!?」 気が付くと、耳障りな激突音と共に、クロウの背後でスパイダーが激しく地面に叩き付けられていた。 「スパイダーさん!?」 「クソッ!エクストラ攻撃『暗黒繚乱』でも、アイツの障壁を突破するだけで大半のエネルギーを使っちまった!」 〈闇鎌刃〉で身体を支えるようにスパイダーはゆっくりと立ち上がった。 スパイダーの全身が微かに赤みを帯びている。 恐らく、スパイダーの人工筋肉が過負荷に絶えられずオーバーヒート気味なのだろう。 「スパイダーさん。アイツの障壁をどうにかしたらアイツを斬ることは出来ますか?」 クロウの上空のメタルギ・グーを見つめながらスパイダーに問うた。 「あぁ、二秒あれば充分だ」 スパイダーの言葉にクロウは振り返って微笑んだ。 「了解です。スパイダーさんは準備を」 クロウは〈ジル・ド・レ〉をアイテムボックスに戻すと同時に、先ほどの名無しの太刀を喚び出した。 「リィさん、デュオさん、デジさん、ボクに力を・・・・・・・・」 クロウは左手で太刀の柄尻を握ると、一気に柄を引き伸ばした。 倍ほど伸びた柄に比例するように、太刀の刀身がインディベルラすら一刀両断出来そうなほど分厚く、そして、長大に伸びた。 「行くよ・・・・・・ボクの斬滅刀!この一刀に全てを賭ける!」 クロウは名無しの太刀を“斬滅刀”と名付けた。 「ラ・フォイエ!」 自分の足下に向けて放った上級火系テクニックであるラ・フォイエの爆風を利用して、クロウはメタルギ・グーよりも高く跳躍した。 「オオオオオオ!」 メタルギ・グー目掛けて降下しながら、クロウは斬滅刀を振り上げる。 「吠えろ、斬滅刀!神・魔・斬・滅・ジィィィィィン!!」 魔獣の咆哮のような風切り音と共に振り下ろされた。 斬滅刀の刃が七色の障壁を瞬斬。 「今です!スパイダーさん!」 着地したクロウが見たのは、左右に断ち別れたメタルギ・グーの姿であった。 「やった!・・・・・・・って、スパイダーさん??」 メタルギ・グーにトドメをさしたはずのスパイダーの姿が見当たらなかった。 クロウの顔が真っ青になる。 震えながらクロウは目の前の断崖を覗いた。 「まさか・・・・・断崖に・・・・・・」 最悪的な想像をしてしまったクロウは、まさか、直ぐ横の草むらの中に倒れているとも知らずに、一目散でスパイダーの姿を捜しに海岸地区へと向かってしまった。 走り去るクロウの姿を見つめながら、スパイダーは、か細い声で必死にクロウを呼び止めようとした。 「お・・・い・・・俺は、ここ・・・・・・・だぞ・・・・・」 全身の人工筋肉がオーバーヒートしている為に満足に喋ることが出来なかった。 スパイダーは助けを呼ぼうかと思ったが、以前、酷い目にあってしまったことを思い出して泣く泣く身体が自然冷却するのを待つことにした。 その後、スパイダーは草むらの中で一晩を過ごす。 パイオニア2に戻ったスパイダーを待っていたのは、行方知らずになったスパイダーを心配して一晩中泣いていたクロウの姿を見てしまって、スパイダーに対して憤慨しているデイジーであった。 そして、デイジーから依頼の遂行期限を過ぎてしまった為に、依頼は不履行となってしまったことを聞いたスパイダーは「ただ働きかよぉ!」と天に向かって叫ぶのであった。 |
![]()
− あとがき − GCPSO−クロウ編−〜死神と鴉〜を読んで下さって有り難う御座いました。お楽しみ頂けましたでしょうか? 誤字脱字の類がありましたら、申し訳ありません。 今回はクロウの新たな武器の話し&スパイダーさんの話です。 スパイダーさんに関しては、今回、初めてそれなりのオチをつけさせていただきました。 格好良いスパイダーさん小説担当なのにスパイダーさんスミマセン。 今回の補足説明は、クロウの新たな武器“斬滅刀”の簡単な設定を紹介します。 斬滅刀 リライアンスがクロウ専用として鍛え上げた太刀の名称。 圧倒的な質量を秘めた強化ラコニウム鋼に、デイジーが 開発した特殊液体金属を織り交ぜて造り上げた。 更に、鍛え上げた斬滅刀にデュオ自身が特殊な魔力を 付加させる。 柄を引き伸ばすことによって刀身に混じっている特殊液体金属 が反応して太刀の刀身が野太刀然と伸びる。 〈ジル・ド・レ〉を越える攻撃力を有しているが、 その破壊力を完全に制御するのは持ち主のクロウにとっても、 至難の業である。 本作品でクロウが叫んでいる技は、クロウが即興で編み出した モノ。 神魔斬滅刃 クロウが即興で編み出した斬滅刀の技の一つ。 柄を最大まで伸ばし、斬滅刀の刀身を最大まで伸ばして敵を 一刀両断させる技。 全ての力を一刀に賭ける為に、その破壊力は他の技を 圧倒している。 デュオが施した特殊な魔力の作用で敵の幽体を斬り裂く 効果も持つ。 肉体と魂を同時に斬り裂く斬滅刀最大必殺技。 以上が斬滅刀の簡単な設定です。 何かの参考にして下さいw それでは、ここまで読んで下さって有り難う御座いました。 では、次回作をお楽しみにw |