GCPSO−EP3編−
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片桐 / 著 |
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| 少女の先を歩く少年は自らをキリトと名乗った。 父親と同じタイプのヒューマースーツに身を包み、ワインレッドの長髪をポニーテールにしたヒューマーと思しき中肉中背の少年。 キリトの話しによると、少女―――フォマールのジュエルは、どうやら、時空の裂け目を飛び越えて二十一年後の未来の、しかも、他人の夢に潜り込んでしまったらしかった。 確かに、ジュエルの目の前に広がっている光景は、とても、現実のモノとは思えない。 二人が歩いている空間を一言で表現するならば、宇宙空間と言えただろう。 数多の星星が輝く宇宙空間に設けられた不可視の床の上を歩いているようだった。 「き、綺麗な夢だね」 ジュエルはぎこちなく話し掛けた。 「この夢の持ち主は良くも悪くも純粋だからな。しかし、この夢の中に巣くっている夢魔を何とかしない限り、ジュエルさんは永遠にこの夢の中から出られない」 立ち止まって振り返ったキリトの容姿はジュエルの良く知る人物にそっくりであった。 碧眼に白い肌。そして、刃のように鋭い視線は、ジュエルが兄と慕っている吸血鬼のデュオに瓜二つである。 キリトはジュエルの顔をジッと見つめた。 「ど、どうしたの?」 キリトは苦笑する。 「いや、俺の知り合いに、そっくりな奴がいてさ。そいつのことを思いだしていたんだ」 「その人って、キリトさんの恋人?」 ジュエルの質問にキリトは声をあげて笑った。 「まさか、違うよ。俺にとっては良くも悪くも妹さ。今のところは・・・・・・・・」 冷静沈着なデュオを活発にさせるとこうなるのかな、とジュエルはキリトを見て思った。 「さて、夢魔の所までもう少しだ。歩くぜ?」 「うん」 先に歩き始めたキリトの背中をジュエルは追いかけた。 「ジュエルさん。未来のことが訊きたいとは思うけど、我慢してな。俺がこの場でベラベラ喋ってたら、過去の時間軸がどのように修正されるか分からないしな・・・・・・・・・」 キリトは小さく「でも」と続いた。 「俺とジュエルさんが出会ったのは偶然ではなく必然かもな・・・・・過去において決定されていた運命事項なのかも・・・・・・原因はジュエルさんに内在する力かな・・・・」 キリトの話は半分も理解出来なかったが、キリトはキリトなりに自分に対して気を使っていてくれていることは、ジュエルにも分かった。 「本当、デュオさん、そっくり・・・・・・・」 キリトに顕著な反応があった。 ビクッと大きく体を震わせたのだ。 「キリトさん、デュオさんと知り合いなの??」 ジュエルの質問に、キリトは立ち止まってしどろもどろになった。 明らかに動揺している。 「それは、あの、ちょっと、えっと――――――」 視線が左右に泳ぎながら口ごもるキリトの姿は、何故か、面白かった。 堪えきれずに、ジュエルは声をあげて笑う。 「うん、ウン。未来のことは、あまり、話せないんだよね? ゴメンね♪」 ジュエルはキリトの顔を見上げる。 予想に反してキリトの顔は真剣になっていた。 まるで初陣前の若武者のようである。 「ジュエルさん。アイツの方から来た。後方へ、最悪、戦闘になる」 キリトの言葉にジュエルは、夢魔が来たのだ、と瞬時に理解してその場から離れた。 ジュエルが後方へと下がったことを確認したキリトは前方の空間を見上げる。 その場所だけ空間が僅かに波打っていた。 「この夢の中から出て行ってくれないか? このままでは、この夢の持ち主は、お前に悪夢を見さされ続けて、衰弱死してしまう。俺は手荒なことはしたくない」 キリトが見上げる空間が激しく波打ち、夢魔がその姿を現した。 一見すると獣の臓腑のような姿の夢魔を生命体と例えるならば、体長十数メートルのショッキングピンクのタコだと表現出来る。 キリトの言葉に対して夢魔から超音波のようなモノが放たれた。 「・・・お前、本当に、マジでそう思っているのか?」 夢魔から放たれた超音波のようなモノは一種のテレパシーであった。 キリトの両眼が大きく見開かれる。 ジュエルの顔を振り返って一度だけ見たキリトは再び夢魔を見上げた。 「人間は家畜以下か・・・・お前、死んだぜ? 俺はこの夢の持ち主であるアイツを・・・・・リンを死なせたくないんでね!」 言葉と同時に無数にある触手をキリト目掛けて高速で伸ばした。 キリトは僅かな動作で夢魔の攻撃を避ける。 一瞬の隙をついて夢魔に接近を試みるも、夢魔が放った衝撃波に阻まれた。 「精神世界じゃあ、物理攻撃は無意味か・・・・・」 キリトの余裕のある動きとは対照的に、その心は、焦っていた。 後方で戦闘を見守っているジュエルは、夢魔に対して対抗手段を持たない為に、この夢の中では極めて無防備な存在なのである。 その事実を夢魔に気付かせてはならないし、キリトの心の奥底では、未だに夢魔と戦闘をしてしまった後悔の念が燻っていた。 (俺は、甘すぎるのかな・・・・・・) キリトが自虐的に微笑もうとした瞬間、後方で悲鳴が響いた。 「野郎!」 振り返ったキリトが見たのは、無数の触手に襲われかけているジュエルの姿であった。 キリトは全身の力を溜めて一気に地を蹴る。 赤と白の疾風と化したキリトは、刹那の差でジュエルを抱き抱えながら、触手の攻撃から逃れる為にその場を離れた。 「そんなに死が望みかよ・・・・なら、くれてやる!」 ジュエルを降ろしたキリトの目の前に一枚のカードが出現した。 右人差し指と中指で挟むようにしてカードを取ったキリトは、夢魔に向かってゆっくりと歩み始める。 夢魔は次々と触手による攻撃を放つが、全て紙一重で回避された。 「九天魔符“滅”・・・・・我は喚ぶ、破滅のメイス!」 カードが光に包まれながら一つの形を成した。 それは長柄のトイハンマー。 長くなった柄に対して比例するように、ハンマー部分も巨大化していた。 「夢魔よ滅せよっ!メイィィィスブレイカァァァァァァッ!」 キリトは夢魔に向かって跳躍。 空中でメイスを振り上げると、猛烈な勢いで前方の夢魔に向かってメイスを振り下ろした。 鳴り響くガラスの破砕音と共に、ジュエルは信じられない光景を目の当たりにする。 周囲の空間を巻き込みながら夢魔の身体に無数の亀裂が走っているのだ。 夢魔から先ほどのテレパシーがひっきりなしに放たれる。 クロウは鋭い視線で夢魔を睨んだ。 「命乞いだとぉ?遅すぎるんだよ。お前は闇を抱いて逝きな・・・・・」 キリトの言葉と共に夢魔が周囲の空間ごと一瞬で砕け散った。 「・・・・・・・キリトさん」 ジュエルの声にキリトが振り返ると、ジュエルの身体が徐々に空間に溶け込み始めた。 「アイツの張っていた結界が壊れたんだ。ジュエルさんの肉体が目覚めようとしている」 「また、会える??」 「ジュエルさんが未来に絶望せずに歩いていけるのなら、会えるよ」 キリトは微笑みながら言葉を続けた。 「ジュエルさん。オフクロと趣味が同じだからって、毎度毎度、キッチンを破壊してオヤジを困らさないでくれよ・・・・・・」 苦笑混じりのキリトの言葉にジュエルの両目は大きく見開かれた。 「キリトさんのパパとママって―――――――――」 手を振って別れを告げるキリトに問おうとした瞬間、ジュエルの意識は闇に呑まれた。 闇の奔流に流され続け、気が付いた時には、ジュエルの視界には見知った天井が広がっていた。 「夢??」 それはあまりにもリアルな夢だった。 他人の夢に紛れ込んでしまう夢。 気味の悪い化け物が出てくる夢。 光景はリアルに思い出せるのに、不思議と、夢の中で出会った少年の姿が思い出せない。 「不思議な夢だったな・・・・・」 ジュエルが溜息を吐くと、ドアの向こうから父親の自分を呼ぶ声が聞こえてきた。 その声に勢い良く返事しながら、ジュエルは夢の中で出会った少年に時を越えて、再び出会いそうな予感がしていたのだった。 |
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− あとがき − GCPSO−EP3編−〜交錯する未来〜を読んで下さって有り難う御座いました。お楽しみ頂けたでしょうか? 誤字、脱字の類がありましたら申し訳ありません。 今作品は以前から予告していたようにEP3の主人公であるキリトを登場させた番外的な作品に仕上がっております。 この作品でキリトの性格が掴めたら幸いです。 まぁ、所詮は夢オチなんですけどねw EP3に関しては詳しい戦闘システムを知らないので戦闘はEP1&2を参考にしました。 キリトの初期設定は私の投稿小説GCPSO−クロウ編−〜怒れる吸血鬼とケーキ怪獣〜のあとがき&補足説明に書かせていただいております。 今回はキリトのライバルキャラとなるフォーマーのソウマの初期設定を紹介します。 なお、GCPSOEP1&2でキャラを作成しておりますのでEP3では若干姿が変更するかも知れません。 名前:SOUMA 年齢:20歳 職業:FOmar I D:WHITILL 口調:一人称はオレ。基本的に敬語は使わない。 身体的特徴:白銀の髪をショートカットにしている。 中肉中背の平均的な身長。 刃のように鋭い容姿をしている。 設定(初期):パイオニア2内でジャーナリストの両親を 持っていたが、ある時、総督府の一部高官の 腐敗を暴こうとして、その高官が送った刺客に よって両親は暗殺される。 命からがら逃げ切ることに成功したソウマは 両親を死に追いやった総督府に復讐すべく アーク側へと身を寄せる。 本来は気さくで面倒見の良い性格。 キリトと同じく偶然に 九天魔符“融(ユグドラシル)”と “狂(クルゥエウ)”を手に入れてしまい、 九天魔符を巡る戦いに巻き込まれる。 独自の意志を持ち、卑怯な行いに対して 嫌悪感を露わにする。 九天魔符“融” 呼び方はユグドラシル。 カード再生と同時に、その能力であるエネミーカード合成を 自動的に行い、驚異的なエネミーを創造する。 手持ちのエネミーカードの中から、任意に選んだカードを 合成させて新種のエネミーを喚び出す。合成エネミーは通常の エネミーカードからは考えられない破壊力と戦闘能力を秘める。 その反面、強力な合成エネミーを造るなら、合成させるに 必要な強力なエネミーカードを所有している必要がある。 カード再生詠唱は「蝕征融鬼(しょくせいゆうき)、 ユグドラシル!」である。 九天魔符“狂” 呼び方はクルゥエウ。 カード再生と同時に白いリングと化して使用者の利き腕に 自動装着される。 あらゆる有象無象を『狂わす』ことが出来る。 主に対象者(アンドロイドも含む)にコンフューズ現象を 引き起こす。また、フォトンブレードを拡散させることも できる。 能力が強力な分、射程距離が極端に短く、対象に触らなければ 能力を発動させることが出来ない。 カード再生詠唱は「狂い惑え、クルゥエウ!」である。 以上がキリトのライバルキャラであるソウマの初期設定です。 それでは、ここまで読んで下さって有り難う御座いました。 では、次回作でw |