GCPSO−クロウ編−
〜湯煙と血煙〜

片桐 / 著



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目の前に広がる真円形の温泉を見て一同は歓声を上げた。

「思ったより、広いですね・・・」
 
第一声を放ったのはデュオだった。
 
その言葉に一同が頷く。
一部の者を除いて皆、素肌にバスタオルを巻いた状態である。
 
目の前に広がる半径十メートルほどの温泉を見つけたのは、修行のためにガル・ダ・バル島密林北地区を訪れていたソルとツインとクロウだった。

「お手柄だな。二人とも」
 
アルフの言葉にソルとツインは素直に照れた。

「そう言えば・・・デジとクロウの姿が見えないが??」
 
もう一人の功労者であるクロウと、その関係が色々と噂されているデイジーの二人の姿が見当たらないことにアルフは気付いた。

「二人は、出入り口の安全確保を兼ねて近くの敵の掃討に出かけたけんね」
 
アルフの問いに答えたのは特徴的な喋り方のマイクロセブンだった。
 
今回の温泉ツアーに消極的だったマイクロセブンは隣にいる同じアンドロイドのスパイダーの強い勧めで渋々参加したのだが、本人は割と楽しそうである。

「防水処理・・大丈夫ですか?」
 
マイクロセブンとスパイダーに声を掛けたのはジュエルだった。

「やっぱり、水着・・・・」
 
褐色の肌に良く映える深緑色のビキニを着ているジュエルが横にいるメイファの一言に顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。

「ちょっと、可愛いかも・・・・」
 
恥じらうジュエルの姿を見て呟いたスパイダーは直ぐさま自らの失言を悔いた。
 
次の瞬間、背負い投げで何者かがスパイダーを前方の湯船の中へと放り投げる。
一同の視線は放り投げられたスパイダーではなく、投げたジャンクに集中している。
 
その必殺の気に全員が息を呑んだ。

「とりあえず・・・入りましょうか?」
 
デュオの言葉に一同はぎこちなく頷いた。

「ふむ、良い湯加減ですね」
 
肩の辺りまで温泉に浸かりながら、デュオは温泉の程良い水温に上機嫌だった。
 
ふと、右横に視線をずらすと何処から持ち込んだのか、お猪口とお銚子で飲み始めているミントの姿があった。とても幸せそうである。

「やっぱり、良いわねぇ〜〜〜」
 
頬を紅潮させてミントは一人悦に入っていた。
 
ストレスでも溜まっているのだろうか、と思いながらデュオは視線を戻す。

「ねぇねぇ、デュオさん・・・・」
 
傍に寄ってきたメイファがそっとデュオに耳打ちしてきた。

「何ですか?」
「ジュエルさんとリィさんを二人きりにさせてあげたんだけど妙案はある?」
 
二人の視線の先には正座をさせられてジャンクに説教されているリライアンスの姿があった。
デュオは思わず「うはぁ・・・」と呟く。
 
隙のないジャンクの姿にデュオは首を横に振った。

「チャンスを待ちましょう」
 
デュオの言葉にメイファはガックリと肩を落としながらジュエルの元へと向かった。

「ゴメン、今は無理みたい」
 
その言葉にジュエルは曖昧な笑みを浮かべた。
 
最近のジュエルは彼氏のリライアンスのことについて何かとメイファに相談していた。
 
それは、気の合う友達であり、同じ年上の彼氏を持つメイファに参考意見を求めていたためである。
そして、人間でありながら、吸血鬼のデュオと種族間を越えて愛を貫こうとするメイファの姿にある種の尊敬の念を抱いたからであった。

「メイファちゃん、色々、ゴメンね」
 
暗い顔のジュエルにメイファは優しく微笑みながら首を横に振った。

「私達、友達でしょ?」
 
メイファの言葉に感極まったジュエルは思わずメイファに抱き付いてしまった。
 
ジュエルの頭を優しく撫でていると、メイファの耳に聞き覚えのある声が聞こえてくる。
 
二人が視線を向けると、そこには胸元にバスタオルを巻き付けたデイジーと腰にタオルを巻いたクロウの姿があった。

「デジさん、すごい胸なのさー」
 
ツインはデイジーの若干童顔気味の顔と、対照的に成熟しきった胸を見て感嘆の声をあげてしまった。

「デジさんに失礼だろ!」
 
あまりに単刀直入なツインの感想に、ソルは顔を真っ赤にさせながらツインの頭を無理矢理下げようとした。

「何するのさー」
 
ソルの行為に憤ってしまったツインは反論の言葉をあげながらソルが腰に巻いているタオルを握った。
ソルの顔が一瞬で真っ青になる。
 
ツインの意図はバレバレだった。

「やめ―――――」
 
咄嗟に身を引こうとしたのが失敗だった。
 
バランスを崩したソルは背中から派手に温泉の中へとダイブ。
 
その光景を見たツインは大袈裟に笑った。
が、不意にその笑いが止まる。
 
ツインの視線はソルが右手に握っているタオルに注がれていた。

「あ・・・・・」
 
間抜けな声をあげたのはソルだった。
 
そのタオルは間違いなくツインが身体に巻いていたタオルである。
 
静寂が温泉内を包み込んだ。
 
一糸纏わぬ姿のツインの目の前には、今まで順調に飲み続けていたために両眼が完全に三白眼に
なっているミントがツインの身体をジッと見つめている。
 
不意にミントが大きく息を吐いた。

「・・・・・・・・・・・・・・・ハン」
 
ミントのわざとらしいリアクションにツインの顔が赤から青へと変わった。

「コラー! ソルが余計なことをするから、あちきが恥ずかしい思いをしたのさー」
「発端を作ったのはお前だろうが!」
 
二人は数十秒間睨み合いを続けると取っ組み合いの喧嘩を仕始めた。怒り心頭のツインは、どうやら、自分がまだ素っ裸であることを忘れているようである。

「あの、止めなくて良いんですか??」
 
クロウが恐る恐るデイジーに話し掛けた。

「アレは、アレで、面白いからオッケーだよ。あははー」
 
デイジーは何時もの笑い声をあげながら、後ろにいたクロウをいきなり温泉の中へと突き落とした。

「何を!?」
 
温泉の中から出てきたクロウはデイジーを睨もうとしてその姿を探した。

「クロウ君」
 
背後から聞こえたデイジーの声に反応して振り返ったクロウの視界が急に白くなった。
 
一拍の間を置いて、クロウは視界を白くしたモノがタオルであることに気付く。

「デ、デジさん!? それは!流石に!い、息が・・・・・・・・・」
 
デイジーに抱き締められたクロウの顔は、その成熟しきった胸の谷間にこれ以上ない位に食い込んでいた。

「デジさん。そろそろ、まずいですね」
 
かなり他人事な調子でデュオはデイジーに声を掛けた。
 
ジタバタと暴れていたクロウの手足が急にピタリと止まる。
 
程なくしてデイジーのタオルが鮮血に染まった。

「クロウ君!?」
 
流石にやり過ぎた、と思ったデイジーはクロウの身体を引き剥がした。
 
クロウは幸せそうな表情を浮かべながら昇天し掛かっている。
 
慌てて介抱するデイジーと昇天し掛かっているクロウの顔を見てデュオは苦笑した。

「でも、デジじゃな・・・・・」
 
クロウのことが少し羨ましく思いつつも、スパイダーは頭を掻いた。

「じゃあ、どんなのが良いの??」
 
不意にスパイダーに話し掛けてくる者がいた。

「やっぱり、こう、ボン、キュッ、ボーン、みたいな感じかなぁ・・・・・」
 
両手で理想のボディラインを描きながらスパイダーは力説した。

「私みたいに??」
「そうそう、モカ姉みたいに――――――」
 
スパイダーは再び犯してしまった失言を悔いた。
 
ゆっくりとスパイダーは振り返る。
出来ることなら振り返りたくはなかった。

「殺すか」
 
スパイダーと視線が重なったアルフが静かに呟いた。
 
青ざめながら「ヒィ」と言いながら後ずさるスパイダーの姿を見て、モカがカラカラと乾いた声をあげる。
 
立ち上がったアルフは恐怖で身体がフリーズしているスパイダーへと歩み寄ろうとし

「アルフさん、それぐらいで許して欲しいけんね」
 
不意にマイクロセブンがアルフを止めた。

「・・・・・・・」
 
マイクロセブンの微笑みにアルフは「むう」と言って立ち止まった。

「本人も反省しているようですし、許してあげたらどうですか??」
 
デュオがアルフに視線を送った。
 
アルフはしばらく黙考するとモカの横に座り直す。
 
その光景に呆気にとられていたジャンクは目の前のリライアンスの姿が消えていることに気付いた。

「しまった!」
 
ジャンクの対ジュエルセンサーがジュエルの居場所を告げていた。

「・・・・・・・ジャンクさん」
 
ジュエルの元へと駆け出そうとしていたジャンクを止めたのはメイファだった。

「たまには良いじゃないですか・・・ジュエルちゃんだって女の子なんですよ?」
「ダメだ!」
「まぁ、そんなこと言わずに」
 
メイファの助っ人にデュオが現れた。
隣りにいたアルフとモカの姿がない。
どうやら、アルフはモカを連れて先に温泉を出たようだった。
 
そして、デュオとメイファの口撃がジャンクに襲い掛かった。
 
その頃、秘かに温泉を抜け出したジュエルとリライアンスは、何時もの黒色の法衣と青色のハンタースーツに着替え終えると、近くの海岸線を一望できる高台にいた。
 
敵の出現を警戒したリライアンスだったが、デイジーとクロウはここの敵も掃討しているようである。
二人は無言のまま海岸を見下ろしていた。

「風が気持ち良いね」
「ああ」
 
何となく気まずい。
 
話題を探していたリライアンスにジュエルはそっと話し掛けた。

「私のこと好き?」
 
突然の言葉にリライアンスの顔は真っ赤になった。
しどろもどろになって次の言葉が上手く発せられない。

「こういう時、デュオさんだったら『好きですよ』って言うんだろうなぁ・・・・」
 
唐突にデュオの名前が出てきたことにリライアンスは顔をしかめた。
 
ジュエルは純粋にデュオを実の兄のように慕っている。
そして、デュオ自身もジュエルのことを妹のように可愛がっていた。
 
その事実に、何となくリライアンスは苛立つ。
 
ムッとした表情を浮かべるリライアンスの顔を見てジュエルは満足そうに微笑んだ。

「嫉妬してくれているんだ」
「バ、バカなことを言うな」
 
照れながら言うので、リライアンスの言葉には全く説得力がなかった。

「デュオさんはライク。リィ君はラブだよ」
 
ジュエルは顔を真っ赤にさせながらリライアンスの顔を見上げた。
 
その笑顔を見るだけで醜い嫉妬心が薄らぐ。
リライアンスは改めてジュエルの不思議な魅力に魅了され、その顔を見下ろした。

「たまには彼氏らしいことでもするか・・・・・」
 
リライアンスの両手がジュエルの両肩を力強く掴んだ。
 
意図を察したジュエルが顔を上げながら両眼を閉じる。
 
どことなく甘ったるい緊張感がその場を支配した。

「ジュエル・・・・・・」
「リィ君・・・・・・・・」
 
二人の唇が重なろうとしたその瞬間、リライアンスは凄まじい殺気を上空から感じた。
 
空から何かが降ってくる。

「ごるら〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」
 
魂の絶叫と共に空から降ってきたのはジャンクだった。

「パパ!?」
 
白と赤色のヒューマースーツに着替え終えているジャンクは、リライアンスに狂戦士でも尻尾巻いて逃げ出すような視線を送った。

「別にやましいことをしたわけでは・・・・・・・・・・」
 
リライアンスは思わず「お義父さん」と言ってしまった。
 
ジャンクは獣のような咆哮をするとリライアンス目掛けて跳躍。
 
温泉内部に響いてきたリライアンスの悲痛な叫び声を聞きながら、デュオはジャンクの足止めを出来なかったことを、心の中で深くリライアンスとジュエルに詫びるのであった。

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− あとがき −

GCPSO−クロウ編−〜湯煙と血煙〜は如何でしたでしょうか?
 
はっきり言ってかなりの駄文ですが、
お楽しみいただけましたでしょうか??
 
これを読んで少しでも面白いと感じて下さったら
とても嬉しいです。
 
何時もの如く、誤字、脱字の類がありましたらスミマセン。
 
そして、この作品に出演依頼をOKして下さった皆様、どうも、有り難う御座いました。
 
キャラ描写に不満な点も多々あるとは思いますが、どうか、大目に見て下さい。
 
それにしても、主にシリアス路線中心の私にとってコメディタッチの作品はとても疲れる作品です(本作品もそれなりに苦労した作品です)。
 
後、本作品に出演しているアルフさんとモカさんはDC版からの特別出演と言うことになっていますので、あまり深いツッコミはなしです。
 
それでは、ここまで読んで下さって有り難う御座いました。
 
では、次回作でw

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