GCPSO−クロウ編−
〜破滅の引き金〜

片桐 / 著



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身寄りのない幼年のニューマンを対象とした人身売買の取り引きの情報を匿名のメールで知ったジャンクは、同じヒューマーで旧知の仲のデュオを伴って取引現場である倉庫区画の一角に建つ倉庫を強襲した。
 
二人がそこで見た光景は、人身売買組織同士の取り引きではなく、倉庫内を真紅に染め上げる一面の血の海だった。
 
組織の売人と思しき人物とその護衛らしき屈強なハンター達。
そして、彼等の商品である幼いニューマンの子供達が無惨な遺体となって血の海の中に転がっている。
 
デュオは隣のジャンクが驚くほど冷徹な瞳をある方向へと向けた。

「幼い子供まで殺すことはなかった・・・・何が目的なのですか?」
 
数秒遅れてジャンクはデュオの視線の先にいる人物に気が付いた。
 
全身が漆黒の死神を連想させるヒューキャスト。
倉庫の壁に背を預けながらこちらをジッと見つめ続けている。

「待っていたぞ。デュオ、ジャンク」
 
ヒューキャストが発したと思われるその機械音声に二人は驚いた。
 
二人が驚くのも無理はない。
その機械音声は間違いなく二人が知っているヒューキャストのデスサーティーン―――現在はスパイダーと名乗っている彼の機械音声そのものだったからである。
 
音声だけではない。その漆黒のフォルムもデスと全く同じだった。

「目的か・・・まぁ、強いてあげるなら・・・・金かな。ある大仕事の前に大金が必要でね・・・裏ギルドを介してこの人身売買組織を潰すことにした」

「それがあの子供達を殺した理由ですか?」
「そうだ。そして、ジャンク。お前に匿名メールを送ったのも俺だ。同じ世代の娘を持つ親バカのお前ならきっとこの餌に食い付くと思ったんでな・・・邪魔なんだよ、お前等」
 
ヒューキャストが淡々と答えた。

「外道が・・・スクラップにしてやる」
 
ジャンクが吐き捨てるように呟いた。

「二人とも、問答無用って顔だな。今から殺し合う前に一つだけ良いことを教えてやろう」
「良いこと??」
 
既に臨戦態勢に入ったデュオとジャンクが同時に訊ねた。

「俺は《破滅の引き金》に興味がある」
 
ヒューキャストの言葉にデュオが激しく狼狽した。

「気付いたようだな。・・・俺の名前はデスゼロ・・・・サーティーンすら足元に及ばない真の死神の名だ。冥土の土産にでもするんだな」
「貴様っ!!」
 
激昂したデュオが一気に地を蹴った。
 
デスゼロに肉迫すると、神速の速さで右拳を突き出す。
しかし、デスゼロは上体の振りだけでデュオの右拳を回避。
 
それに微塵も動揺することなくデュオは次々と、拳を、蹴りを、掌底打を、休むことなく繰り出した。一部の隙も無駄もない神速の攻撃。

「お前の格闘術は・・・・速いが無駄がなさ過ぎる。それ故、こんなに簡単に見切れる」
 
デスゼロの言葉にデュオは僅かに苦笑した。

「なら、これはどうです?」
 
デュオが真上に跳躍すると同時に背後にいたジャンクがアイテムボックスから喚び出した赤刃のセイバーである赤のセイバーを逆袈裟状に振り上げた。

「当然」
 
デスゼロは短く呟くと同時に右掌底打で左首筋目掛けて襲い掛かる赤のセイバーの赤刃を下方へと叩き落としながら、デュオが頭上で放った空中右回し蹴りを屈んで回避。
 
デュオは空を切った回し蹴りの体勢のまま一回転して再び空中右回し蹴りを放った。
 
人では不可能な空中での体重移動と平衡感覚から再び放たれた攻撃に、デスゼロは楽しそうに両目を細める。
 
身を起こした直後であるデスゼロにデュオの蹴りは避けられない。ジャンクは致命傷にならないまでも、デスゼロのダメージは確実だと思われた。

「所詮は有機生命体だな―――――」
 
残響を残しながら目の前のデスゼロの姿がジャンクの視界から完全に消え失せた。

「ジャンクさん!ヤバイ、超音速機動!」
 
攻撃を途中で止めたデュオは着地しながら半ば呆然としていたジャンクの名を叫んだ。
 
ジャンクの右横から不意に不快な高周波ノイズと殺気が襲い掛かる。
 
ほぼ、反射的に右横へと跳んで回避したジャンクの直ぐ傍を高周波ノイズを伴う衝撃波と殺気の塊が通過した。

「これが、超音速機動??」
「一部のハイクラスアンドロイドだけが使用できる音速移動で攻撃するです!この不快な高周波ノイズが何よりの証拠―――」
 
デュオは真正面から襲い掛かった衝撃波と高周波ノイズを真上に跳躍して回避。
 
二人は互いを認識できる距離を保ちながらデスゼロの不可視の攻撃を殺気を頼りに回避し続ける。
高周波ノイズが倉庫内に響き、地面の血溜まりが飛沫のように宙を舞った。

「いい気になるなよ・・・」
 
ジャンクは正面から襲い掛かる衝撃波をジャンクは避けもせずに限界まで引き付けた。
 
衝撃波がジャンクを呑み込もうとした瞬間にジャンクは僅かに体を右に反らして衝撃波を紙一重で回避しながら、刹那の差で赤のセイバーを振り上げる。
 
真紅の斬撃が衝撃波を斬り裂いた。

「流石に、やるな」
 
超音速機動を解いたデスゼロは虚空から姿を現しながら驚きの声をあげた。その左腕は根本から切断されている。

「クッ!」
 
ジャンクは片膝をついた。
 
斬撃を放った瞬間に放たれたデスゼロのカウンターの左手刀を回避しきれずに右脇腹から左肩へと一直線に斬り裂かれた。幸いにも傷は浅い。

「デュオ!」
 
回復系テクニックであるレスタを使用しながらジャンクはデュオの名を叫んだ。
 
超音速機動を解いた今こそ好機である。
 
デュオはジャンクの言葉に呼応するかのようにデスゼロ目掛けて跳躍。

「見せてあげましょう。闇天陰流も我が内の魔力でさえも通過点に過ぎないことを!」
 
デュオの右前腕部が漆黒に光り輝く。

「エボニーブラストッ!」
 
神速の速さで振り上げられた右拳から放たれた拳圧が漆黒の衝撃波と無数の闇の飛礫となってデスゼロに襲い掛かった。
 
暗黒の奔流がデスゼロを呑み込む。

「凄い!」
 
ジャンクはデュオが見せた人外の一撃に息を呑んだ。
 
暗黒の奔流に呑み込まれたデスゼロの身体は四散するかと思われたが、実際はデスゼロを背後の壁に激しく叩き付ける程度だった。

「やはり、不完全・・・グッ!」
 
風を斬り裂く音と共にデスゼロが放った赤のセイバーが、空中で攻撃を放った直後で身体が硬直しているデュオの一瞬の隙を抜けて、デュオの右胸に突き刺さった。

「デュオ!」
 
ジャンクの心配を余所にデュオは空中で縦に一回転して着地した。
何ごともない顔で赤のセイバーを引き抜く。

「ご心配を・・・これしきで私は死にません」
「流石だな。やはり、二人同時に殺すのは不可能か・・・・」
 
デスゼロの言葉と共に大量のダメージトラップが出現した。
この倉庫全体を根刮ぎ破壊するのに充分な量である。

「二人とも、また逢おう。サーティーンによろしく・・・・・」
 
デスゼロの言葉を最後に倉庫は閃光に包まれた。
 
轟音と爆発。文字通り木っ端微塵に破壊された倉庫後の中央にデュオとジャンクは立っていた。
 
爆発する瞬間にデュオは持てる全ての魔力を使って結界を張る。
しかし、不完全な結界であったために結界を張った張本人であるデュオ自身に想像を絶する衝撃が襲った。

「デュオ!?」
 
力無く微笑みながらデュオはその場に倒れた。
 
ジャンクの声が遠くに聞こえる。
 
闇の中へと微睡んでいく意識の中で、デュオはデスゼロが言った《破滅の引き金》の言葉を思い出していた。

(ジャンクさん・・・・・)
 
《破滅の引き金》―――それは、デュオ達のような人外の異生命体《ナイトウォーカー》達にとって忌むべき存在だった。
 
デュオはそんな畏怖の対象である《破滅の引き金》と呼ばれる少女と出会って、自らが愛する者の友となってくれた礼を込めて少女を護る決意をした。
 
あの天真爛漫な笑みを思い出しながらデュオは意識を失うのであった・・・。

GCPSO−クロウ編−
〜破滅の引き金
・追記

片桐 / 著

声が聞こえる。
 
闇の中からデュオは自らの名を呼ぶ声を聞いた。

「デュ・・・オ・・・さ・・・・・ん」
 
声に導かれるようにしてデュオは目を覚ました。
 
最初に視界の飛び込んできたのは見慣れぬ天井。
そして、安堵の表情を浮かべる褐色の肌の少女。

「ジュエルさん?」
「良かった。パパ、気が付いたよ」
 
デュオが寝たまま視線をずらすとジャンクが安堵の表情を浮かべていた。

「気を失ったお前をここまで運んでくるの・・・苦労したんだぞ」
「そうでしたか・・・・気を失っていたんですね・・・」
 
ジャンクとデュオの二人は数時間前にデスゼロと名乗る正体不明のヒューキャストと交戦した。
結果はドロー。
 
スパイダーと面識があると思われるあのヒューキャストの底知れぬ力にデュオは何か得体の知れないモノを感じた。

「ここはジャンクさんの自宅ですか??」
 
ジャンクの代わりに答えたのはジュエル。

「うん。パパがいきなり重傷のデュオさんを運んで来て『治療してくれ』て言うもんだから・・・・」
「ジュエル以外に近くにフォースがいなかったんでな・・・すまなかった、デュオ」
「デュオさん・・・パパを庇ってくれて有り難う御座いました」
 
二人から交互に礼を言われてデュオは苦笑した。

「お気になさらずに・・・世話になっているのはこちらですから」
 
デュオの言葉にジュエルは苦笑した。

「それじゃ、私、メイファちゃんを呼んでくるね」
「ああ、頼む」
 
ジャンクの言葉にジュエルは微笑みながら部屋を出て行った。

「・・・・デュオ」
 
ジャンクの声のトーンが明らかに低くなる。
声の調子だけでデュオはジャンクの言いたいことを理解した。
上半身を起こしながら、デュオはジッとジャンクの顔を見据えた。

「《破滅の引き金》についてですね?」
「そうだ。大方、ジュエルのことなんだろう?」
 
ジャンクの指摘にデュオは「ご名答です」と答えた。

「《破滅の引き金》って何だ?」
「それを話す前に・・・少し・・・私達《ナイトウォーカー》のことを・・・お話しします」
 
デュオは、誤魔化すことは出来ない、と静かに話し始めた。

「私達、《ナイトウォーカー》は大きく分けて三派に別れます。
一つは人類を家畜と考える人類家畜派。
更に、人類との共存を考えている人類共存派。
最後に自分達に直接的な害が及ぼさない限り人間達の社会に介入しない人類傍観派の大きく三派に別れます」
「お前は人類共存派なのか?」
 
ジャンクの言葉にデュオは微苦笑を浮かべながら首を横に振った。

「私は人類傍観派です。共存派の連中は自分に都合の良い連中とだけ共存を考えている連中です。そして、ジュエルさんを《破滅の引き金》と呼ぶのも連中です」
 
デュオの顔が僅かに渋面を作った。

「私はジュエルさんの力に関して詳しいことを知りません。知りたいとも思いません。しかし、人間よりも数倍の感覚や魔力を有する私達は感じるのですよ。ジュエルさんの内に
秘めたる驚異的な力を・・・そして、その力に畏怖した共存派はジュエルさんのことを《破滅の引き金》と名付けました」
 
ジャンクの中で殺気が膨れ上がった。
 
愛娘であるジュエルを勝手に化け物呼ばわり共存派に対しての凄まじい殺気と怒りをデュオは感じ取る。

「なるほど」
 
ジャンクの冷たい声が室内に響いた。

「あの・・・デスゼロの・・・狙いはジュエルさんの力・・・・それか、力に何か関係するものと思います・・・確かなことは言えませんが・・・」
「・・・・なぁ、デュオ」
 
一時の沈黙の後、不意にジャンクが口を開いた。

「はい」
「お前なら、愛する者と世界の安寧・・・どちらを取る?」
 
ジャンクの鋭い眼光がデュオを見据える。

「ジャンクさん、私の答えは参考になりませんよ。私は人ではない・・・古から生きる吸血鬼・・・正真正銘の化け物ですから」
 
デュオは続けて「ですが」と付け加えた。

「どちらかを取れと言うなら、私は迷わず愛する者を取ります」
 
デュオに対する軽い殺気がジャンクから発せられた。

「・・・簡単に答えるんだな」
「私にとっては簡単な質問ですよ。愛する者のいない世界に何の未練もありませんから」
 
軽い調子の声の中にデュオの確固たる意志と信念をジャンクは感じた。
「私は、ジャンクさんと出逢う前に、ある事件で、愛する者を目の前で失いました。そして、私は世界に絶望し・・・緩やかな自滅の道を選びました」
 
ジャンクは出逢った頃の刹那的で破滅的な雰囲気のデュオの姿を思い出していた。

「メイファに感謝しないとな」
 
ジャンクの言葉にデュオは「そうですね」と言って苦笑した。

「メイファのいない世界なんて・・・何の興味もありませんから」
「もし、メイファを訳あって倒さなければいけないとしたら・・・・お前は俺と・・・・」
 
デュオは軽く首を横に振った。

「言わなくても解るでしょう?それに、私に言わせないで下さい」
 
ジャンクは静かに「すまない」と言った。

「しかし、私は世界とジュエルさん、どちらかを選ぶのではなく、両方を救う選択を模索しますけどね」
 
デュオは優しく微笑んだ。

「お前らしいよ・・・・」
 
呆れた口調で溜息を吐いたジャンクはデュオの顔を見て笑った。

「デュオさん!」
 
いきなり部屋の扉が開くと同時に両目に涙を溜め込んだメイファがデュオの胸元に抱き付いてきた。

「怪我は大丈夫なの??」
 
問い掛けにデュオは優しく微笑んでメイファの頭を優しく撫でた。

「メイファちゃん。デュオさんはまだ怪我人なんだから!」
「・・・・ゴメン」
 
肩を小さく丸めて申し訳なさそうにしているメイファの姿を見てデュオとジャンクとジュエルは思わず吹き出してしまった。

「デュオさん。今からメイファちゃんと協力して精のつく料理を作って上げますね♪」
 
揚々としたジュエルの言葉にデュオとジャンクは固まってしまった。

「パパも楽しみしていてね」
 
天真爛漫な笑みをジャンクに見せながら、ジュエルはメイファとワイワイと騒ぎながらキッチンへと消えていった。

「ジャンクさん・・・ジュエルさんとメイファさんの・・・あの二人の料理・・・まさか、食べないって言うんじゃないでしょうね?」
 
口調は優しいがデュオの目は笑っていなかった。

「お前はどうするんだ?」
「そうですね。寝たフリでもしますか?」
 
ジャンクの鋭い視線がデュオを射抜く。

「冗談ですよ。あの二人のあんな楽しそうな表情を見たら断れないでしょう?」
 
デュオの意見にジャンクは「むぅ」と言って顔をしかめた。

「まっ、観念しましょう♪ 今の内にスケープドールを用意したらどうですか?
まっ、私は用意していますけどね♪」
 
抜け目のないデュオに、ジャンクは小さく舌打ちした。
 
カラカラと笑うデュオの姿を背中越しにジャンクもスケープドールを用意するために部屋を出て行った。
 
一人になったデュオは声を押し殺して笑う。
 
デュオはジャンクが最後まで質問しようとして出来なかった質問を悟っていた。
 
―――お前はメイファのためにジュエルを殺せるのか?
 
恐らくジャンクはこの質問を自分にぶつけたかったのだろう。
デュオはジャンクの話す雰囲気から何となく悟っていた。

「ジャンクさん。私を兄のように慕ってくれている人を殺せるわけないじゃないですか・・・」
 
デュオはキッチンの方角から聞こえてくる轟音を聞きながら静かに呟くのだった・・・。

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− あとがき −

GCPSO−クロウ編−〜破滅の引き金〜&〜破滅の引き金・追記〜は如何でしたでしょうか?お楽しみいただけたでしょうか?
 
毎度のことですが誤字脱字の類がありましたらスミマセン。
 
今回は一気に二話送らせていただきました。
 
話し的に繋がった二作品なので一気に載せることにしました。
今回は補足説明らしきモノをするモノがないので休ませていただきます。
 
申し訳ありません。

それでは、次回作でw

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