GCPSO−クロウ編−〜閃空に舞う死神〜 |
片桐 / 著 |
| アンダーグラウンドで活躍するアンドロイド達にとって“ダークネスインバーター”の存在を知らぬ者はいなかった。 圧倒的な戦闘能力、如何なる依頼もそつなくこなす実行力、そして、敵対する者達に絶対的な敗北を与えるその姿からアンドロイド達は畏怖を込めて“闇を招く者”―――“ダークネスインバーター”と呼称した。 その“ダークネスインバーター”がガル・ダ・バル島高山エリアでうたた寝をしていた。 「ん?」 漆黒のフォルムが特徴的なヒューキャストが上半身を起こした。 体内機能チェックのためにうたた寝をしていたヒューキャストは何か敵意に近いものを感じ取って上半身を起こしたのだ。 気怠そうに振り返るがそこには誰もいない。 が、以前感じる敵意にヒューキャストは完全に立ち上がると、アイテムボックスからソウルパニッシュを喚び出した。 真紅の灯火を放つ砕魂の大鎌を右肩に担ぎながら呟く。 「出て来いよ。別にシャイだから隠れているわけじゃないよな?」 ヒューキャストの言葉に呼応するかのように、同じ漆黒のフォルムを持つ三体の頭部全面を覆う 戦闘用ヘッドギアをつけた中背のヒューキャシールが姿を現す。 「“ダークネスインバーター”ノスパイダーダナ?」 「俺の名前を知っているのか・・・・俺も有名になったもんだな」 スパイダーと呼ばれた漆黒のヒューキャストは悪態をついた。 相手が放つ禍々しい殺気がスパイダーの全身を襲う。 「貴様ハ、アノオ方ノ計画ノ邪魔ニナル存在・・・・消ス」 「何だ・・・逆ナンかと思ったのによぉ・・・・・」 スパイダーの悪態を無視して三人のヒューキャシールは地を蹴った。 「問答無用かよ」 三人の動きに合わせるようにスパイダーも地を蹴った。 後ろは断崖。スパイダーにとっては背水の陣であった。 ソウルパニッシュの射程に入った瞬間にスパイダーはソウルパニッシュを振り下ろす。 正面のヒューキャシールに鎌刃が襲い掛かった。 「甘イ」 正面のヒューキャシールの姿がいきなりスパイダーの視界から消え失せた。他の二人も同様にその姿が完全に消失している。 ―――超音速機動! ハンター型アンドロイドの身体能力を限界ギリギリにまで引き出すことによって可能な有機生命体には不可能な音速移動。 スパイダーはアンドロイド達の間で噂されている存在のことを思い出した。 「お前等『ソニッカー』だな!?」 高周波ノイズが三方向から一斉に襲い掛かった。 スパイダーは数日前に映像ライブラリーで見たマタドールのように、巧みな体捌きで三方向から襲い掛かる高周波ノイズを回避する。 不可視の存在にスパイダーは小さく舌打ちした。 スパイダーの知り得る限りでは、ソニッカーと呼ばれるアンドロイドは極一部の軍組織によって『力よりも速さ』をコンセプトに造り上げられた強化アンドロイドである。 そして、完成したソニッカー達は一定の戦果を示したものの、致命的な汎用性の低さから全員廃棄処分されたはずであった。 噂が本当であることにスパイダーは半ば信じられなかった。 しかし、現実が超音速機動突撃によってスパイダーに襲い掛かる。 「お前等、何で、俺がお前達の計画の邪魔になるなんて解るんだよ!?」 「オ前ガオ前デアル限リ、我等ヲ救ッテクレタアノオ方ノ邪魔ニナル」 「何だよ、そりゃ!?」 二体のソニッカー達の平行直線突撃を真上に跳躍して回避したスパイダーはそれがソニッカー達の罠であることに気付いた。 目の前のスパイダー目掛けて跳躍した三人目のソニッカーの超音速機動突撃の直撃を喰らったスパイダーは背後の断崖目掛けて弾丸の如く吹き飛ばされる。 「ウオオオオオ!」 空中で受け身を取って体勢を立て直しながら着地したスパイダーは、アイテムボックスからアドスロットのような金具を取り出すと、ソウルパニッシュに装着した。 「こいつはデジにピンチの際に試験運用してくれって言われた物なんだけどなぁ・・・・」 そう言いながら金具のスロットらしき部分に小箱のようなソレを差し込んだ。 「〈MCルシフェル〉装填確認。インストール確認・・・〈闇鎌刃〉起動成功」 抑揚のない重低音の男性型の音声に呼応するかのように出現した黒色のフォトンがソウルパニッシュを異形の大鎌へと変化させた。 外側のフォトン鎌刃が洗練された実刃に変化し、全身が一気に漆黒へと染め上がる。 「さぁ、本番だぜ」 スパイダーの言葉に反応して真紅の灯火の変わりに鎌刃が真紅に光り輝いた。 「オノレ!」 一体のソニッカーが狼狽した。 再び超音速機動に入る。不快な高周波ノイズが周囲に鳴り響いた。 「無駄さ」 スパイダーはあらぬ方向の虚空を右拳で叩いた。 空間が激しく震える。虚空からいきなり先ほどのソニッカーが出現して遙か後方の二体の元へと殴り飛ばされた。 「何ダト!?」 「そんに禍々しい殺気を放っていれば簡単に攻撃予測角度ぐらい見切れるっつの・・・お前等、センサーに頼り過ぎているんだよ」 スパイダーは退屈そうに呟いた。 ソニッカー達は動揺する。 ソニッカー達は“ダークネスインバーター”と呼ばれる凄腕のヒューキャストのスパイダーの口から『殺気』と最も有機生命体な言葉が出たことが信じられなかった。 しかし、超音速機動が見切られたことに変わりはない、という事実がソニッカー達に重くのし掛かる。 「次は俺の番だな」 スパイダーは楽しそうに両目を細めると〈闇鎌刃〉を左へと薙ぎ払う動作をした。 複数の残像を残してスパイダーの姿が完全に消え失せる。 超音速機動特有の高周波ノイズはおろか全ての音が完全に消失していた。 圧倒的な機動力に怯えるソニッカー達の脳裏に一つの言葉が浮かぶ。 「マサカ、超過音速機動ナノカ・・・・ソレガ、アノ鎌ノ能力ナノカ!?」 超過音速機動―――ハンター型アンドロイドの身体運用理論上存在する超音速機動を越える超絶な機動力の名称。その速度は限りなく亜光速に匹敵した。 ソニッカー達は自分達のセンサーを総動員させる。 しかし、亜光速の速度で移動し続けるスパイダーの姿を捉えることは出来なかった。 「行くぜ。〈闇鎌刃〉エクストラ攻撃!」 虚空からスパイダーの声が響いた。 「散レ!」 ソニッカー達が超音速機動に入ろうとした。 が、ソニッカー達は自分達の間を音も衝撃もない漆黒の閃光が駆け抜けるのを見る。 「砕魂の斬華―――『暗黒繚乱』!」 虚空から姿を現したスパイダーの背後でソニッカー達が圧倒的な質量の衝撃波と闇系テクニックのメギドの効果を伴う〈闇鎌刃〉の鎌刃による斬撃の奔流に呑み込まれた。 ソニッカー達が力無く宙を舞う。 勝負は決した。 「安心しな。峰打ちだ」 驚いたことにスパイダーは〈闇鎌刃〉エクストラ攻撃『暗黒繚乱』をソニッカー達に直撃させないように放ったのだ。 かすっただけであの威力とは、とスパイダーは驚く。 「シャレにならない物を造りやがって・・・・・・」 脳裏で高笑いをするデイジーの姿を思い浮かべて呆れるようにスパイダーは呟いた。 「オイ、生きているか??」 「流石ダナ。シカシ、種ハ蒔カレタ。我等ノ意志ハアノオ方ガ継イデクレル・・・・」 独り言のように呟く一体のソニッカーの元に近付こうとしたスパイダーは不意に金属音を聞いた。 反射的に後ろへ跳躍。 轟音と爆発。ソニッカー達が自爆したのだ。 「自爆!それほどの秘密をアイツ等は抱えていたのかよ!?」 爆風に吹き飛ばされながらも、断崖ギリギリで踏みとどまったスパイダーは驚きの声をあげて動揺した。 秘密を抱えていても自爆までするアンドロイドは滅多にいない。 しかし、あのソニッカー達は自爆までしなければいけない秘密を抱えていたのだ。 「やな気配だぜ・・・・」 スパイダーが今まで培ってきたヒューキャストとしての勘がソニッカー達の裏で蠢く何かを感じ取っていた。 しかし、スパイダーはこの戦いが後に自身の宿命と因果の戦いに発展することには気付かなかった・・・・。 |
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− あとがき − どうも、GCPSO−クロウ編−〜閃空に舞う死神〜は如何でしたでしょうか??お楽しみいただけたら幸いです。 毎度のことながら誤字脱字の類、その他諸々がありましたらスミマセン。 さて、今回は以前からお知らせしていた通りデスさんお話です。 オリジナル武器である〈闇鎌刃〉と〈MCルシフェル〉。 デスさんは気に入っていただけましたか?? どうですか、デスさん? 満足していただけましたか?? こちらとしては、結構気合い入れて書き上げたつもりなんですけどねぇw 恐らく一部から「こんなデスありえね〜〜」と言う意見が出るのは必至ですね。 皆さん、大目に見てやって下さい。 今回の補足説明は物語に度々登場する『パイオニア2博物館未開封資料庫』なる組織についてです。 『パイオニア2博物館未開封資料庫』とはサラヴィと呼ばれる女性が一人で創り上げた違法アイテムや人類の負の遺産オーバーアイテムズの破壊を目的とした秘匿民間組織の名称。 とにかく謎の多い組織で構成員の数が四名ぐらいしか判明していない。クロウもこの組織に所属している。 民間組織であるために目的のためなら軍やハンターズギルドとも敵対することを厭わない側面を持つ、ある意味危険な組織。 本拠地はなく恒星間移民船団パイオニア2本船内に建っている『パイオニア2博物館』とも無関係。 実体が見えない組織として裏社会の闇組織の間ではかなり危険視されている。 以上が簡単な『パイオニア2博物館未開封資料庫』についての設定です。 余談ですが、クロウ編は後一本書き上げたら、しばらく外伝的なコメディ路線に行こうかと思っています。 手始めに現在カフェのBBSにある温泉話しでも書こうかと思っています。 それでは、ここまで読んで下さって有り難う御座いました。 では、次回作でw |
GCPSO−クロウ編−〜閃空に舞う死神 追記 〜 |
JUNK / 著 |
| 酷く虚しく感じる戦いを終えてスパイダーは、みんなの待つカフェの雰囲気が懐かしくなっていた。 「うぅーー 辛気臭い! こんなときはカフェ行ってジャンクとかをからかって 気分直しだな」 そう決め込んでラグオルの軌道上に浮かぶパイオニア2のシップに戻るために、テレパイプを取り出そうとしたが、そのときにスパイダーは自分の身体に起こった異常に気が付いた。 「あれ? 身体が熱いんじゃないか?」 そのうえ、思うように身体が動かせなくなっているのにも気が付いた。 「ヤ、ヤバイんじゃねぇの、これって・・・」 そうこうしているうちに、スパイダーの身体が地響きを立てて、草むらの中に倒れこんでいった。 「うわぁーーーー 身体が動かないーーー ヤバイ! ヤバイ!! ヤバイ!!!」 なんとかスパイダーは体内装備の緊急用メール発信システムを使って助けを求めた。 「誰が助けに来てーーーー! いや! ミントやジャンクはいらん! 奴ら来たら何されるかわからんし。 うぅ・・・ このシステムのメールって発信可能者の全てに送るからなぁ。アイが来てくれたらいいのにぁ、優しく看病してくれそうだし、ナース服着てくれたらもっと嬉しいんだけどなぁ。さすがに無理かな、それは」 なにやら自分勝手な妄想だけが動けない身体の上で暴走しているようだった。 暫くの間、スパイダーの暴走する願望交じりの妄想を止めるものは現れなかった。 それからさらに暫く経って、一人の女性の姿がスパイダーの傍に現れた。 彼女はオレンジ色の髪を風になびかせていた。 「まったく緊急メールなんて送ってきて、どうしたのよ?」 「んとデジか、身体が熱持っって動かねえ」 「ちょっと見せて」 そう言ってデジは、スパイダーの身体を調べだした。 「デス、あんたの人工筋肉に過剰な負荷がかかって高熱が発生してるわね。動けないのはその所為よ。一種の強烈な筋肉痛ね。いったいなにやらかしたのよ?」 「お前に貰ったヤツを使って、超過音速起動しただけだよ」 「それが原因だわ。やっぱまだ改良の点があるってことね」 「そんな不良品渡すんじゃねぇーーー!!」 「あら、一応試作品だって言ってなかった?」 「聞いてない・・・」 「そう、じゃ今聞いたわよね。それでいいじゃない」 「あのな・・・」 「じゃ、私は戻るわね」 「って待て!! まだ俺の身体動かないんですけど?」 「身体が冷えて熱が取れたら動けるようになるわよ」 「って、それまで放置かよ!!」 「うるさいわね。じゃ、冷やしてあげるわよ」 「え?!」 デジの言葉になにやら不穏なものを感じたスパイダーだったが時既に遅しだった。 デジはスパイダーに向けてテクニックを放っていた。 「バータ! ギバータ!! ついでにラバータ!!!」 凍結テクニックの3連コンボだった。 「じゃ、私はこれからクロウとデートだから帰るわね、リューカー!!」 そう言い残してデジは、自らが呼び出した簡易転送装置に入っていった。 あとには氷柱の中でスパイダーだけが一人残されていた。 |
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− 追記・あとがき − たしかにこのデスは格好良い過ぎですねwだから、私がデスに相応しいオチを用意しましたw 追記がそうですw ぜひ楽しんでくださいw やっぱデスはこうだろ(邪笑w |