GCPSO−クロウ編−〜狂気の糧〜 |
片桐 / 著 |
| 特殊ガラスケースの中に収納されている一枚の薄汚れた布を眺めながら、オレンジ色の髪をツインテールにしたハニュエールのデイジーは首を傾げた。 「こんな薄汚れた布のために、こんな、大人数で護衛とはね・・・・」 デイジーの周りには屈強そうなヒューマーやヒューキャシール達でひしめいていた。 ハンターズギルドを介して近場で済ませられる比較的簡単な依頼を探していたデイジーは、自宅から数キロの地点に建っている某企業が所有する研究施設内で保管されているある物の護衛依頼を受けた。何事もなければ楽な依頼である。 しかし、デイジーは嫌な気配を感じ取っていた。 「何事も―――」 言葉の半ばでデイジーはいきなり暗闇に包まれる。 数秒して非常灯に切り替わった。 周りのハンター達の狼狽した声が聞こえてくる。 デイジーは呆れたように溜息をついた。 この部屋が暗闇に包まれた理由は一つ―――このフロアに直結しているブレーカーが何者かに破壊されたのだ。 デイジーは一人で部屋を出る。 あれしきで激しく動揺するハンター達とは一緒にいられなかった。 廊下に灯った赤く、薄暗い、非常灯の光を頼りにデイジーは監視カメラのモニター室を目指した。真っ先に襲撃される可能性が高いからである。 アイテムボックスから赤のハンドガンを喚び出しながら、デイジーはそっとモニター室の扉を開ける。モニター室は静まり返っていた。 そして、ソレを見た。 「これは、非道い・・・・」 そこには間接ごとに分解された無惨なモニター監視員の遺体が転がっていた。 赤色の薄暗い照明で判別できないが部屋の中は血でまみれているはずである。 デイジーの全身から嫌な汗が噴き出すのを抑えきれなかった。 敵はかなりの手練れ。恐らく、単独犯。 それも、人体を破壊するのに長けたプロフェッショナルの仕業である。 「ヤバイ!」 デイジーは護衛対象が保管されている場所へと舞い戻った。 部屋の中にモニター監視室と全く同じ物が無数に転がっている。 デイジーは必死の思いで込み上げてくる嘔吐感に堪えた。 「貴方は?」 数メートル先に一人のヒューキャストが立っていた。 「フッ、貴様こそ、何者だ?」 ヒューキャスト特有の機械音声がデイジーに向けられて放たれた。 底冷えするような限りなく凍てつく声音。 「!」 それは本当にデイジーの運が良かった。 遺体から流れ出た血で足を滑らしたデイジーは思わず体勢を崩す。 その刹那、デイジーの頭上を不可視の高周波ノイズが襲い、通過した。 「真空波!?」 デイジーは迷うことなくヒューキャスト目掛けて赤のハンドガンの引き金を引いた。 「生半可な攻撃は俺には通用しない」 ヒューキャストの右腕が半ばから完全に掻き消えた。 視認不可能な速度で右手刀を放ったのである。 フォトン弾が虚しく虚空で塵となって消失した。 「この布はいただく」 ヒューキャストはガラスケースを台に固定している金具を左手刀で斬り裂くと、物資運搬用の転送ゲートを出現させて、その中にガラスケースごと布を放り込んだ。 「依頼完了」 ヒューキャストの視界を、ふと、黒い影が覆った。 顔を上げるとデイジーが竜殺の大剣―――ドラゴンスレイヤーを垂直に振り下ろすところだった。相手を生かすことを全く考えていない必殺の一撃。 「フッ」 ヒューキャストが放った右手刀が激しい火花を散らしながらドラゴンスレイヤーを弾き返した。 デイジーは左手刀で反撃に移ろうとするヒューキャストの左腕を両足で蹴ると同時に、激しく縦に一回転して再びドラゴンスレイヤーを振り下ろす。 デイジーの攻撃にヒューキャストは直ぐさま右手刀で応戦した。 二つの刃が激突した途端にヒューキャストは激しい爆発に襲われる。 ドラゴンスレイヤー特有のエクストラ攻撃『爆発攻撃』の直撃にあったのだ、とヒューキャストは一瞬で判断した。 ヒューキャストは後方の壁を突き破って屋外へと吹き飛ばされた。 デイジーも間髪入れずにその後を追う。 意図は不明だが、ヒューキャストはすぐ傍の大型駐車場でデイジーを待ち受けていた。 幸いにも、遮蔽物となる車は一台も置かれていない。 「貴様、やるな」 ヒューキャストの揚々とした声を聞いてデイジーは背筋に寒いものが走る感覚に襲われた。 正直、気分が悪い。 蒼いフォルムが特徴的なヒューキャストが身構えた。 金色の双眸が狂気を孕んだ怪しい光を放つ。 デイジーは先に地を蹴った。 一気にヒューキャストに肉迫するとドラゴンスレイヤーを逆袈裟状に振り上げる。が、その攻撃を予測していたヒューキャストが振り下ろした左手刀によって相殺された。 間髪入れずに放たれたヒューキャストのカウンターの右拳がデイジーの腹に食い込む。 「ガハッ!」 殴り飛ばされたデイジーは空中で体勢を立て直すと、着地してヒューキャトを睨んだ。 「その程度か、貴様は? お前は俺の存在意義を満たしてくれる貴重な存在だ」 狂気の沙汰としか思えないその言葉に、デイジーは目の前のヒューキャストの心の闇を垣間見た気がした。 今までの攻防でヒューキャストは一度も殺気らしい殺気を放っていない。目の前のヒューキャストにとって『命を壊すこと』に微塵の感情も抱いていないのである。 「気に入らないわね。貴方は存在してはいけない存在。それは、私にも解るわ・・・・」 デイジーは吐き捨てるように呟くと、アイテムボックスから一振りの大剣―――通常のソードを喚び出すと、続けて小さなスロットアイテムに似た物を喚び出すと、ソードの柄尻に差し込んだ。 「〈MCサンダルフォン〉装填確認。インストール開始・・・〈イメージグラスパー〉起動成功」 抑揚のない女性の声と共にソードから白色のフォトンブレードが出現した。 表情一つ変えずにデイジーは疾駆。 加速をつけたデイジーは一気にヒューキャスト目掛けて跳躍。 ヒューキャスト目掛けて〈イメージグラスパー〉を振り上げた。 「無駄だ」 ヒューキャストは再び左手刀を〈イメージグラスパー〉目掛けて振り下ろした。 金属と白色のフォトンブレードが激突し合う音が辺りに響く。 デイジーは歯を食いしばって渾身の力を込めた。 白色のフォトンブレードが光り輝く。 ヒューキャストの左手刀を左腕ごと斬り裂いた。 「!」 初めてヒューキャストの顔に動揺が走った。 「イヤヤヤアッ!」 気合一閃。 デイジーは返す刀でヒューキャストの右腕を切り裂いた。 「これで終わりよ!」 デイジーの掛け声と共に〈イメージグラスパー〉を振り上げた。 無数のフォトンの矢―――〈イメージグラスパー〉のエクストラ攻撃『光の拡散弾』がヒューキャストを吹き飛ばす。 しかし、ヒューキャストは僅かな差で『光の拡散弾』を間一髪で回避した。 それでもなお、圧倒的な『光の拡散弾』の余剰エネルギーによって、ヒューキャストは吹き飛ばされたのである。 「面白いな。フッ、これで俺も本気が出せるというものだ・・・・・・・」 両腕を斬り裂かれて絶体絶命のピンチにも関わらず、ヒューキャストの声は冷静そのもの―――むしろ、絶対的な余裕さえ感じられた。 ヒューキャストが放つ雰囲気が異質なモノへと変化しようとした瞬間、遠方から治安機構のサイレンが二人の周囲に鳴り響く。 ヒューキャストは小さく「ここまでだな」と呟いた。 心底、残念そうなその声にデイジーは、はっきりとした恐怖を抱いた。 「俺の存在意義を満たしてくれる奴がこんな所にもいた・・・・貴様で二人目だ。これから先も、人類の歴史が示すように、怒りを糧に憎しみを育め・・・・そうすれば、この俺に勝てるぞ。この、マサカドにな・・・・」 「ま、まさか、お、お前がマサカド!?待ちなさい!」 デイジーが駆け出すよりも速く、マサカドはリューカーバイブを出現させるとその場から消え失せる。 マサカドの不敵な言葉がデイジーの脳裏に焼き付いて離れなかった。 その後、デイジーは駆けつけた治安機構に、一時、殺人容疑で身柄を拘束されるも、直ぐに無実と判明して釈放される。そして、何者かの圧力だろう。 翌日のメディアはこの事件のことを一切、報道しなかった・・・・・。 |
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− あとがき − GCPSO−クロウ編−〜狂気の糧〜は如何でしたでしょうか??駄文ですがお楽しみいただけたら幸いです。 誤字、脱字、その他諸々のミスがありましたら申し訳ありません。 今回は何かとクロウに深く(様々な意味で)絡んできているデジさんが主役です。 クロウ編のキーパーソンであるマサカドとの対決を主軸に展開しました(と言っても戦闘シーンしかないんですけどw) さて、誠に申し訳ないのですが今回の補足説明は休ませていただきます。 昨夜の飲み会の余韻がまだ残っていて頭がガンガンするモノで・・・・本当に申し訳ありません。 それでは、ここまでお読み下さって有り難う御座いました。 では、次回作も楽しみにしていて下さいw |