GCPSO−クロウ編−

〜マシラの宴

片桐 / 著



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オレンジ色の長髪が特徴的な一人のハニュエールの少女が、目の前の巨猿―――ヒルデベアをゆっくりと見据えながら地を蹴った。
 
ヒルデベアは原生林エリア内に存在しているエネミーの中でも、かなり有力なエネミーである。いくら、ノーマルエネミーと言えども油断は禁物な存在だった。

「!」
 
少女は右脇構えに構えていた自身の身長ほどもある赤刃の大剣―――赤のソードを左斜め上方へと振り上げた。
 
赤いフォトンブレードがヒルデベアの身体を斜めに両断する。
 
少女は目の前のヒルデベアの死を確認する前にその場から離れた。
 
風切り音と共に一体のヒルデベアが先ほどまで少女がいた地点に降りてきた。もし、少女がそのままその場から離れていなければ間違いなく圧死していただろう。

「オラッ、怠けてんな!」
 
少女の口から男勝りな声が放たれた。

「うるさい!」
 
少女に怠け者呼ばわりされたのは、僅かにウェーブの掛かった紫色の髪が特徴的な蒼い法衣を着たフォーマーの少年。
 
少年は軽く少女を睨みながら目の前のヒルデベア目掛けて右手をかざした。

「ラ・フォイエ!」
 
少年の言葉を引き金にヒルデベアがいる空間が爆ぜた。
 
ヒルデベアが悲痛な声をあげる。火系上級テクニックであるラ・フォイエを喰らって即死しないのは流石と言ったところだろう。

「たぁ!」
 
体勢を崩したヒルデベア目掛けて少女は赤のソードを振り下ろした。
 
ヒルデベアの首が宙を舞い、少年の足下に落ちる。
勝利のブイサインをしている少女を見ながら少年は呆れたように肩をすくめた。

「全く、どれだけ出現したら気が済むんだ?」
 
二人は既に十数体のヒルデベアを狩っていた。
 
更に驚いたことに、アルティメットエネミーのヒルデルトが通常一緒に行動することのないヒルデベアとペアになって出現していたのである。

「まさに猿共のオンパレードだな・・・まぁ、オレは良いけどな」
 
今から数時間前、二人はハンターズギルドからのダイレクトメールによる依頼で惑星ラグオル原生林エリアへと向かうことになった。
 
依頼内容は現地で特殊な依頼に従事しているヒューマーの護衛及びアシスタント。
 
成功報酬の高さに目の眩んだ二人は依頼を簡単に引き受けてしまった。

「ん?あれが、どうやら護衛対象だな・・・・・」
 
少女の隣の隔壁の向こうから戦闘音とヒルデベアの断末魔が聞こえてきた。

「かったりーな」
 
気怠く呟きながら少女は隔壁解除スイッチを作動させて次の区画の中へと進んだ。

「あれっ、アイツは・・・・・」
 
少女は区画の中でヒルデベアの死骸を見つめている黒髪をポニーテールにした少年を見つけると素っ頓狂な声をあげた。
 
目の前にいるのは間違いなく自分達が頻繁に立ち寄る6675ロビーに最近ちょくちょく顔を出している少年ヒューマーである。少女は少年ヒューマーに声を掛けた。

「えっと、クロウだっけ・・・?」
 
クロウと呼ばれた少年ヒューマーは少女の顔を見て「マツリさん?」と呟いた。
 
マツリはクロウの問い掛けに屈託のない笑みを見せる。

「こんにちは、クロウ君」
「ジーザスさんまで・・・お二人は、もしかして・・・・」
 
クロウの言葉に二人は微笑んだ。

「まっ、そゆこと♪」
 
マツリはクロウの顔を見ながら揚々と応えた。
心なしか顔が紅潮しているのはクロウの整った容姿のせいである。
 
同性のジーザスから見てもクロウの容姿は文句無しの
美少年だった。

「それにしても、この、ゴリ軍団は?」
 
ジーザスの言葉を受けてクロウは口を開いた。

「お二人は“賢者の石”という物をご存知ですか?」
 
首を横に振る二人を見て、クロウはアイテムボックスから拳大の大きさの水晶玉を喚び出した。

「それが、“賢者の石”??」
 
マツリの問い掛けにクロウは頷いた。

「そうです。このオーバーアイテムズ“賢者の石”はある科学者が古い呪的な文献を参考にして創り上げた物です。ボクの目的はこれの破壊です」
 
ジーザスは訝しげにクロウを見た。

「じゃあ、何で今すぐ破壊しないんだ?」
 
クロウはジーザスの問い掛けに「待っているんです」と小さく呟くように答えた。

「待っている??」
 
マツリとジーザスの声が重なる。
 
次の瞬間、クロウは何の脈略も無しにマツリを前方へと蹴り飛ばした。

「何するん―――」
 
空中で受け身を取って体勢を立て直して着地したマツリが見たのは、何者かの攻撃を喰らって吹き飛ばされるクロウの姿だった。
もし、クロウが自分を蹴り飛ばさなければ吹き飛んでいたのは確実に自分の方であった。
 
ジーザスは目の前でクロウを殴り飛ばした異形の巨猿を睨む。

「ヒルデトゥール!」
 
原生林エリアに棲息するアルティメットエネミーの中でも間違いなく最強を誇る青色の皮膚装甲を持つレアエネミーがそこに悠然と立っていた。
 
マツリは咆哮をあげるヒルデトゥール目掛けて地を蹴る。
 
赤のソードを振り上げながらヒルデトゥール目掛けて跳躍。
一気に振り下ろす。

マツリの一撃は目の前のヒルデトゥールの恐るべき回避能力で虚しく空を斬った。

「右横!」
 
ジーザスの悲痛な声にマツリは視線だけを右横へと移動させた。
 
ヒルデトゥールが右拳を突き出す姿が視界一杯に広がる。
 
攻撃の直後であるがために無防備な身体を空中で晒すマツリが、ジーザスの目の前で殴り飛ばされた。

「このっ!」
 
ジーザスが怒りに燃える瞳でヒルデトゥールを睨み付けた、
次の瞬間、ジーザスは我が耳を疑った。
 
信じられないことにヒルデトゥールが「ラ・ゾンテ」と
言い放ったのだ。
 
雷系上級テクニックであるラ・ゾンデの雷撃がジーザスに襲い掛かる。

「ガッ!」
 
ジーザスは思わずその場に片膝をつけた。
テクニック耐性の強いフォースでなければ丸焦げになっていたところだった。
 
ヒルデトゥールは勝利の雄叫びをあげると右拳をジーザスに向けて振り上げる。

「くっ!」
 
ヒルデトゥールが右拳を振り下ろした瞬間、オレンジ色の疾風が片手でジーザスの着ている蒼い法衣の襟首を掴むとそのままジーザスを後方へと投げ放った。
 
続けざまに疾風が放った斬撃が眼前に迫るヒルデトゥールの右拳、そして、右腕を両断する。
真っ二つになった右腕を見ながらオレンジ色の疾風―――マツリは叫んだ。

「クロウ!」
「〈MCメタトロン〉装填確認。インストール開始・・・〈ジル・ド・レ〉起動成功」
 
抑揚のない女性の声が周囲に響く。
マツリの叫びに呼応するかのように漆黒の旋風が猛烈な勢いでヒルデトゥールに肉迫した。
 
赤のセイバーの形状をした漆黒のセイバーを右手に持つクロウが漆黒のセイバー〈ジル・ド・レ〉を逆手に持ち替える。

「天宝輪割殺術―――“吠怒羅”(ハイドラ)!」
 
激しく左回転しながら逆手のまま、右から左へと振り抜かれた〈ジル・ド・レ〉から放たれた高周波ノイズを伴う振動波が、ヒルデトゥールの皮膚装甲を貫通して体内を縦横無尽に暴れ回った。強固な外見とは裏腹な脆弱な内蔵が振動波によって引き裂かれる。
 
全身から血を噴き出しながらヒルデトゥールは地面に倒れ、そして、動かなくなった。

「“賢者の石”は現代科学でも計測不可能なほどの純正エネルギーを生み出します。そのエネルギーを利用してヒルデトゥールと融合するなんて・・・・」
 
クロウの言葉にマツリは言葉を失った。
「まさか“賢者の石”を創った科学者って・・・このゴリ野郎・・・?」
 
クロウが頷く姿を見て、ジーザスも言葉を失った。

「科学者がどの様な動機で進化を望んだのかはもう知ることができません。でも、これは進化じゃない・・・ただの成れの果て・・・狂気の沙汰です・・・・」
 
憂いを帯びた瞳とは対照的に僅かにだが残酷に微笑むクロウの姿を見た二人はクロウに何か得体の知れないモノを感じるのであった・・・・。

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− あとがき −

GCPSO−クロウ編−〜マシラの宴〜は如何でしたでしょうか?
 
この様な駄作では御座いますが楽しんでいただけたらとても感激です。
 
毎度のことですが、誤字脱字、その他諸々不備な点がありましたら申し訳ありません。
 
さて、今回は最近秘かに萌えているマツリさんを描きたいという一心で書き上げた作品です。
ちゃんとマツリさんを活躍させたつもりなんですけどどうでしたか?
 
今回の補足説明は『オーバーアイテムズ』の軽い設定です。


 
『オーバーアイテムズ』とは太古の人類が残した超常的かつ神秘的な力を秘めたアイテムの総称。しかし、そのほとんどが現在の人類には不相応なアイテムであり、人類に対して悪影響と不益しかもたらさないことから負の遺産としても有名(事実、オーバーアイテムズが原因と
思われる内紛も何回か発生している)。
現在、恒星間移民船団パイオニア2内にどれだけの『オーバーアイテムズ』が持ち込まれたかは不明(一部では数千にも及ぶと言われている)。
また、一部の大した力を秘めていない『オーバーアイテムズ』は現在の科学力でも製造可能である。
 
総督府、軍部共に『オーバーアイテムズ』の存在は知っており両組織の下部組織がこのアイテムの収集及び破壊に暗躍している。

また、一部の噂では複数の正体不明の民間組織が『オーバーアイテムズ』の破壊に活躍していると言われている。
 
ハンターズギルドでは『オーバーアイテムズ』の存在を事実上黙殺してはいるが、放っておくこともできないために、『オーバーアイテムズ』を『計測不可能なレアアイテム』として、極秘裏に一部の民間組織に回収もしくは破壊を依頼している。


以上が『オーバーアイテムズ』の軽い設定です。
では、ここまで読んで下さって有り難う御座いました。
 
それでは、次回作でw

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