PSO〜ヴァンパイア〜

片桐 / 著



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恒星間移民船団パイオニア2本船中央に位置する場所に建てられている総督府ビルから約五キロ先にある五階建てのテナントビルで立てこもり事件が発生した。
 
犯人の人数は四名。
 
運悪くそこに居合わせてしまった十六名が人質となってしまった。
 
人質の中には総督府高官とパイオニア2中でも有数の資産家も含まれていた。
 
この事件にパイオニア2全体の治安を維持管理する軍警察は直ぐさま人質救出のために特殊部隊をビル内に突入させたが、突入から四十分後、特殊部隊員全員が縊り殺された姿でビルの屋上から投げ捨てられた。
 
その異常な殺し方に作戦本部内に重たい空気が包み込もうとした時、一人の少女が本部仮設テント内へと入ってきた。

「ギルドからの依頼で来ましたレイマールのメイファです。宜しく」
 
黒髪をポニーテールにした中性的な美少年の容姿を持つメイファと名乗った少女は作戦総責任者の中尉の顔を見てにこやかに微笑んだ。

「報告では二人来るはずだが?」
 
つい数分前、ハンターズギルドから今回の事件にあたって二人のハンターを派遣するとの旨を伝えるメールが本部に届いていた。

「もう一人は既に現場に。私は単なる連絡係として、貴方達にお伝えしたいことがあって来ました」
 
メイファの言葉に本部内にいる全員が顔をしかめた。

「お伝えしたいことは三つ。
一つ目は人質は既に全員死んでいること。
二つ目は犯人達は人間ではないということ。
三つ目は犯人達は現場に潜入したもう一人が即時抹殺するということ。
これら三点は貴方達の上司の了承済みです。直ぐに正式な報告が来るでしょう。全権を私に一任しろと」
 
メイファの言葉に中尉以外全ての人間が反発した。
しかし、中尉は顔を青ざめさせながら「解った」と重く呻くと、周りの人間達を諫めた。

「有り難う御座います」
 
メイファは嫌味なほどニコリと微笑んだ。

((デュオさん、オッケーが出たわ。後は思う存分やってくれって♪))

「了解です」
 
ビル内部の片隅で一人の青年が明るい調子で答えた。
 
真紅の髪をポニーテールにした二十代半ばの長身痩躯な青年。
 
ハンターズギルドにヒューマーとして登録しているデュオはメイファのテレパシーを受け取って微苦笑を浮かべた。
 
メイファは何と説明したのかは知らないが、恐らく現場の責任者は直接的にそんなことは一言も言っていないだろう。
 
デュオはメイファに人質は既に全員死亡していることと犯人は確保せずに即時抹殺するということを本部に伝えることを頼んだだけだった。
しかし、メイファはデュオの言葉に少し脚色を付けたらしかった。

「人選、間違えたかな?」
 
呟きながらデュオはエレベーターを起動させた。
 
犯人一味が立てこもっているのは五階の大型会議場。
 
デュオは事件発生の報せを聞くと同時に犯人達が人間でないことをメイファに告げた。
 
犯人達の正体は人外の異生命体―――闇の眷属《ナイトウォーカー》低位吸血鬼種だった。
古吸血鬼種であるデュオとは同じ吸血鬼種として眷属にあたる存在だ。
 
前々から《ナイトウォーカー》達の間で複数の吸血鬼が事件を起こそうとしている情報がまことしやかに囁かれていた。

「下等吸血鬼共、少し、オイタが過ぎたようだな・・・・・」
 
憎々しげに呟きながらデュオはエレベーターを五階へ行くようスイッチを押すとエレベーターから出た。
 
五階へと順調に向かう無人のエレベーターを確認しながらデュオは右人差し指で虚空に文字を描くと、いきなり何の脈略も無しにデュオの姿がその場から消失したのだった。
 
一方、五階に立てこもった犯人達は意気揚々としていた。
 
つい数分前に人質の身代金として一億メセタを要求するメールを本部宛に送りつけたばかりであった。

「アイツ等要求を呑むかな?」
 
犯人の一人、金髪をオールバックにした男が他の三人に問い掛けた。

「間違いない。きっと呑むさ。さっきの突入でこりたろうしな」
 
リーダーらしきスキンヘッドの男が後ろを振り返りながら不敵に微笑んだ。

「でも、アイツ等もアホだよなぁ〜人質は肉塊になっているのによぉ〜」
 
金髪の男の右隣に座っている緑色の髪をボブカットにした男が下世話に笑った。
 
更に緑色の髪の男の横に座っている黒髪をアフロヘアにした男が黙って頷いた。

「違いない」
 
スキンヘッドの男が微笑んだ。
 
四人は会場に突入し、制圧した直後に人質十六名全員を文字通り肉を喰らい血を啜って殺した。
 
勝利を確信して笑い合った四人の耳にエレベーターの到着音が入ってきた。

「おぉ、交渉人かな?」
 
緑色の髪の男が呟いた。減額を要求するなら喰ってやろうと男は思った。
 
しかし、四人の予想を裏切ってエレベーターは無人だった。
 
特殊部隊が再度突入してきたのかと警戒したがその気配はなかった。

「誤作動か?」
 
黒髪をアフロヘアにした男が呟いた。

「違うよ」
 
男の声が虚空から響くと同時に黒髪をアフロヘアにした男の身体が左右に両断した。
 
突然の出来事に他の三人は身動き出来ない。
 
その三人の前にデュオは悠然と立っていた。

「お前達のような者がいるから《ナイトウォーカー》の不遇の歴史は終わらないのだ」
 
唖然とする男達目掛けてデュオは疾駆。
 
一気に金髪の男に肉迫すると右手刀を振り上げる。
 
その視認不可能な速度のために右肩先から完全に右腕が掻き消えていた。

「闇天陰流、月影の型裏壱式―――“断”」
 
先程の黒髪をアフロヘアにした男と同じく、金髪の男が左右に両断された。

「ヒ、ヒッ!」
 
短い悲鳴を放ちながら緑色の髪の男が軍が正式採用している実弾式のサブマシンガンをデュオに向けて乱射した。
 
吐き出された弾丸がデュオの身体に襲い掛かる。
 
弾丸が肉を斬り裂き、砕き、穿ってもデュオは平然と立っていた。
 
やがて弾が尽きたのか、カラカラ、という乾いた音をたてながら射撃音が止んだ。

「何を驚いている? これくらいの再生、お前達にも出来るだろう?」
 
元通りに復元していくデュオの身体から弾丸がボトボトと
落ちていった。
 
二人は戦意を完全に喪失してしまった。
 
緑色の髪の男は脱力したようにその場に座り込むと力無く笑い始めた。
 
デュオがスキンヘッドの男に視線を向けると男は一目散に仲間を置いて逃げ出した。

「―――――♪」
 
デュオの口から美しい旋律が流れた。
 
高位の《ナイトウォーカー》ならデュオの口から流れ出た旋律が正真正銘の“魔法”を行使する際に必要な長大な詠唱を高速圧縮させた失われし技巧の一つである“旋律詠唱”だと気付いただろう。
 
そして、スキンヘッドの男に向かって右手をかざすとデュオは静かに呟いた。

「回廊魔法――――“悲愴”」
 
言葉と共にスキンヘッドの男の周囲の空間が一気に砕け散り、変わりに出現した氷結世界にスキンヘッドの男は原子の塵以下へと分解された。
 
元の風景へと復元されている光景を眺めていたデュオは残った男の方を振り向いた。
男は四肢をズタズタに引き裂かれて死んでいた。

「闇天陰流、月光の型終式――――“死音”ですか」
 
デュオはある一点を見つめた。

「どうしたのですか?私を殺さないのですか? ねぇ、《ディープナイト》さん?」
 
デュオの言葉に一瞬だけ虚空が揺らめいた。
姿は見えないが、確かにそこには何者かがいて、デュオをジッと見つめていた。

((慌てるな“クロノス”今日はお前を殺す気はない))

《ディープナイト》と呼ばれたその者はデュオに一方的にテレパシーを送るとその場から完全に掻き消えた。
 
完全に姿が消えるのを確認してデュオは重い溜息を吐いた。

「いよいよ、動き出したのですね。プロジェクト“クロノス”が―――」
 
デュオは哀しそうに呟いた。
 
顔を上げて両眼を閉じてしばらく黙考すると、やがて、ゆっくりと両眼を開いてメイファに依頼完遂の旨を伝えるテレパシーを送るのであった・・・・。

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− あとがき −

PSO〜ヴァンパイア〜は如何でしたでしょうか?
お楽しみ頂けたら幸いです。
 
毎度のことですが誤字脱字その他諸々があったらスミマセン。

本作はGC版デュオの初登場となる作品です。
今までチョイ役で少し登場させていたのですが完全に主役として登場したのは今回が初めてです。
 
主人公のくせに影が薄いので・・・・(苦笑w)
 
GC版デュオはちょっと残酷なところが多々あるのでそこら辺を本作で現そうと考えたのが本作を作るきっかけです。
 
なお、本作はジャンクさんからネタ提供をいただいた《ディープナイト》を少しですが登場させております。
 
《ディープナイト》の存在は本作でも少し伏線をはっておいた〜プロイジェクト“クロノス”編〜で徐々に正体を現せていきたいと考えております。
 
それでは、ここまで読んで下さって有り難う御座いました。
 
それでは、次回作でw

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