PSO〜マツリの後悔〜 |
片桐 / 著 |
| オレンジ色の長髪をなびかせながらハニュエールのマツリはハンターズギルドからの正式な依頼によって、ある一人の男を一般居住区外れの空き地へと追い詰めた。 男は恒星間移民船団パイオニア2内で約五十件の凶悪事件を起こした高額賞金首。 賞金七万メセタにマツリは飛び付いた。 同業者であり顔見知りのヒューマーであるデュオの協力によって男のアジトを突き止めたマツリは、ウェーブの掛かった紫色の髪が特徴的なフォーマーのジーザスを無理矢理巻き込んで アジトへ強襲した。 アジトを放棄する男を二人は必死の追跡によってこの空き地へと追い込んだ。 「観念しな。賞金首、ギイル。賞金はオレがいただく!」 男―――三十代後半の邪な容姿を持つギイルは薄く微笑んだ。 その笑みを見てジーザスはそっとマツリに耳打ちする。 「アイツ、普通じゃない」 プロのハンター二人に追い詰められながらも、ギイルはこの状況を楽しんでいるかのようだった。 そして、その異常な雰囲気にマツリは息を呑む。 今にして思えば、あのデュオが親切丁寧に依頼に協力してくれたのはどうも胡散臭かった。 彼は人外の異生命体―――闇の眷属《ナイトウォーカー》古吸血鬼種、つまり、正真正銘の純血のヴァンパイアだった。 あのデュオの態度から賞金首が人外の可能性が高いことを警戒すべきだったと今更ながらマツリは後悔した。 「お前達は強いのかなぁ〜〜?」 ギイルの緩みきった口元からダラダラと唾液が流れ落ちていた。 完全にイッている。 その瞳を見て二人は言い知れぬ不安感に襲われた。 最初にギイルのある変化に気付いたのはジーザスだった。 ギイルの背中が異常な速さで膨れ始めた。 やがてそれはギイルの着ていた白いワイシャツを突き破りその姿をマツリ達に見せた。 「腕?」 呟いたマツリが見たモノは間違いなく太く逞しい男性の腕だった。 ギイルの背中に腕が生えていた。 合計三本の腕を持つ異形の姿のギイルが下世話に微笑む。 「さぁ、始めよぜぇ〜〜〜」 無防備に近付いてくるギイル目掛けてジーザスは高位火系テクニックであるラ・フォイエを叩き込んだ。 「なっ!?」 マツリは我が目を疑った。 ギイルに襲い掛かった爆発がギイルの右腕に吸収されたからだ。 「炎を吸収した?・・・マツリッ!!」 ギイルは突然ジーザス目掛けて駆け出した。 マツリはアイテムボックスから赤刃の剣――――赤のセイバーを喚び出すとギイル目掛けて吶喊した。 一気のギイルの懐に飛び込むと同時にマツリは赤のセイバーを振り上げた。 風を斬り裂く赤刃がギイルの左腕を斬り裂いた―――はずだった。 「嘘だろ!?」 ギイルの第三の腕が虚空で赤のセイバーの赤刃を無造作に掴んでいた。 間髪置かずマツリは赤のセイバーをアイテムボックスにしまうとギイルの首筋目掛けて蹴りを放つがそれよりも先にギイルの放った右前蹴りがマツリの腹部に食い込んでいた。 「ガハッ!!」 マツリはそのまま猛烈な勢いで蹴り飛ばされた。 「マツリ!」 目の前を通過したマツリを見てジーザスはギイル目掛けて中位氷系テクニックであるギ・バータを続けて放った。 「無駄さぁ〜〜」 突然ギイルの姿がジーザスの眼前で掻き消える。 そして、気が付くとギイルはジーザスに肉迫していた。 「クッ!」 反射的にテクニックを放とうとするジーザスの頭部をギイルの第三の腕が掴んだ。 「クソ坊主〜〜遅いんだなぁ〜〜」 ギイルの右拳がジーザスの腹部にめり込む。 「!」 続けて左拳が腹部にめり込んだ。 ギイルは第三の腕でジーザスの頭部を掴んだまま、その身体をサンドバックのように殴り始めた。 その光景をマツリは歯軋りしながら見つめた。 (クソ・・・・) 身体全体が軋むように痛い。 レスタでもカバーしきれない深刻なダメージを負いつつもマツリは全身に力を入れた。 歯を食いしばり立ち上がろうとする。 いや、立ち上がらなければいけなかった。 「オレの・・・・・」 マツリは呟きながらゆっくりと立ち上がる。 口の端から血が流れ落ちる。 「オレの仲間に手を出すな――――――っ!!!!!」 マツリは吼えると前傾姿勢のままギイル目掛けて疾駆。 「んん〜〜??」 ギイルはまるで飽きた玩具を投げ捨てるかのように無造作にジーザスを放り投げた。 その光景を見た瞬間、マツリの頭の中は真っ白になった。 マツリは一気にギイルに肉迫するとギイルの右手首を持ち、軽く横に捻った。 ギイルの身体が紙屑のように宙を舞った。 姉であるフォマールのユカタが教えてくれた護身技を放ったのだった。 「姉貴っ!デュオさん!」 二人から『絶体絶命になるまで決して使うな』と何度もクギをさされた力をマツリは使う覚悟を決めた。 起き上がったギイルの反撃に対してマツリの両手が閃々と舞った。 「な、なな何だぁ〜〜〜??」 ある男から第三の腕を移植手術を受け、只の一般人からハンターを越えた存在となった自分の、超人的な力が、目の前の華奢な少女に全く通用しなかった。 まるで羽毛を殴っているかのような手応えの無さにギイルは恐怖を覚えた。 「闇天陰流―――“音無の構え”」 まるで何かを抱き留めるかのように両腕を広げているマツリはギイルの攻撃を次々と捌いていった。 焦るギイルに一瞬だが隙が生じた。 「隙ありっ!!」 マツリはギイルの腹部に左掌底打を叩き込むと同時に自らの左手甲目掛けて右掌底打を放った。 二つの掌底打によって生み出された圧倒的な衝撃がギイルの身体を貫通してギイル自身を弾丸のように吹き飛ばした。 「闇天陰流、月光の型四式―――“双震砲”!」 呟くと同時にマツリは疾走。 再びアイテムボックスから赤のセイバーを喚び出すと崩れ掛けの壁に深々とめり込んでいたギイルの胸元目掛けて赤のセイバーを投擲した。 胸元に突き刺さったまま赤のセイバーを見て絶叫をあげるギイルを見据えながら赤のセイバーの柄尻目掛けて右蹴りを放った。 「テメェはこれで逝けっ! 闇天陰流、月光の型弐式―――“蹴震砲”っ!!」 「な、な、な、何故、俺がぁ〜〜〜――――――」 赤のセイバーを伝わってギイルの体内に浸透した震動波がギイルの身体を一瞬にして塵へと変えた。 「何故って?簡単な話さ――――テメェはオレを怒らした。只、それだけだ・・・・」 よろめくマツリの身体をジーザスが支えた。 ジーザスの「この技は?」の問い掛けにマツリは静かに呟いた。 「あの時・・・デスさんに助けられた時、俺は何も出来なかった。 それが悔しくて姉貴とデュオさんに相談したらこの技を教えてくれたんだ・・・・」 マツリの言葉にジーザスは「そうか」と呟いた。 「お前の『俺の仲間に手を出すな』って台詞、嬉しかったよ。 それにしても、犯人が塵になったんじゃあ、賞金はなしだな・・・・・」 ジーザスの言葉にマツリはガックリと肩を落とした。 マツリの「せめて、半殺しにしておけば良かった・・・」との言葉にジーザスの顔は心なしか青ざめるのであった・・・・。 |
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− あとがき − 如何でしたでしょうか?PSO〜マツリの後悔〜でした。 毎度のことですが誤字脱字の類がありましたらスミマセン。 本作はジャンクさんの所の『マツリの笑み』の続編的な要素を持っている作品です。 どうですか、マツリさん? 気に入っていただけましたでしょうか? なるべく格好良く書いたつもりなんですけどね・・・・・・。 では、次回作をご期待下さい。 ここまで読んで下さって大変有り難う御座いました。 |