PSO〜氷姫と黒い蜘蛛・2〜 |
片桐 / 著 |
| リシア=サーキュラス。 総督府高官達の御曹司の間でこの少女を知らぬ者はいない。 蒼い長髪に白い肌が特徴的な白薔薇のように美しく可憐な美少女。 ある事件をきっかけに感情を取り戻した彼女の笑顔はまるで天使の微笑みのように慈愛に満ちていた。 当然、求婚者と交際志願者は湯水の如く現れ、中にはストーカー行為にも及ぶ者まで現れる人気ぶりだった。 そのリシアが一人のヒューキャストと手を繋ぎながら夜の街を走っていた。 ヒューキャストの名はスパイダー。 その漆黒のフォルムは闇より深い。 「リシア、後から四人追っかけてくる。お前はその物陰に隠れていろ」 スパイダーはリシアを避難させると後ろを振り返って疾駆。 荒技“韋駄天”――――アンドロイドの中でも卓越した身体能力を最大限発揮できる者だけが使用可能な移動術。 残像すら残らない漆黒の風が追ってきた四人の男達の間を駆け抜けた。 音もなく崩れ落ちる四人。 「峰打ちだ・・・・・って、もう気絶しているか・・・・」 スパイダーは静かに呟いた。 「お怪我は?」 駆け寄るリシアにスパイダーは「うんにゃ」と頭を左右に振った。 「この人達はやっぱりお父様が?」 「そうだろう。大方、お前さんを連れ戻すよう頼まれた連中だろう。それにしても解せんな。やり口が乱暴すぎる」 男達の手にはそれぞれ殺傷能力の高い得物が握られていた。 「まさか、こいつ等、依頼主を裏切ったのか?」 「そうですよ」 前方の闇の中から声音が響いた。 聞き覚えのある声音。 出来ることなら今の状況で聞きたくなかった声音だった。 「この人達は依頼主を裏切ってリシアさんを誘拐して身代金を奪おうとしたんですよ」 「そうかい。で、お前はどうなんだ?えぇ、デュオ!」 闇の中から現れたのは真紅の髪をポニーテールにした長身痩躯なヒューマー。 整った鼻梁を持つデュオが二人に向かって微笑んだ。 「私が受けた依頼は連中の殲滅と、勝手に家を出たリシアさんとそれを助けるスパイダーさんを生きて依頼主の前に連れてくることの、二点です」 デュオは間合いを詰めながら「来てくれますか?」と優しく問い掛けた。 「愚問だな。お前なら俺が次に何を言うか予想がつくだろ?」 「残念です。後は貴方達を連れてくるだけで依頼は完了するのに・・・・・・・」 唐突にデュオの雰囲気が変化した。 禍々しい殺気がスパイダーの全身に突き刺さる。 デュオはやや前傾姿勢で前に一歩踏み込むとその姿を掻き消した。 「ハァ!」 スパイダーは気合い一閃。 迫り来る殺気だけを頼りに右拳を突き出した。 「やりますね。殺気と気配だけで私の攻撃地点を予測計算するとは」 右拳を間一髪でかわしたデュオは大きく後退した。 「リシア、逃げるぞ」 スパイダーはデュオから視線を外さずにリシアに言った。 リシアは力強く「はい」と頷いた。 「デュオ。リシアの覚悟。お前に邪魔されるわけにはいかないんでね」 スパイダーはダメージトラップを喚び出すとデュオに向かって全力で投げ放った。 亜音速の速度でデュオ目掛けて飛んでいったダメージトラップはデュオの目の前で爆発。猛烈な炎がデュオを呑み込んだ。 「逃げるぞ」 スパイダーはリシアを抱きかかえるとビルの合間を縫うように疾走。 「でも、あの爆発では・・・・」 リシアの言葉にスパイダーは微苦笑を浮かべた。 「あの程度の炎、アイツには目眩まし程度にしか効かないよ」 その言葉を裏付けるように後から言い知れぬ気配が自分達に迫ってきていた。 とにかくスパイダーは走った。 何処かでデュオを迎撃しなければ確実に追い付かれてしまう。 スパイダーは近くの倉庫区画内へと逃げ込んだ。 「息もするな。身動きもするな。少しでも動いたらアイツに見つかるぞ」 デュオの足音が大きくなり、やがて、小さくなった。 「これで、しばらくは大丈夫だな」 スパイダーは嘆息した。 「スパイダーさん、ゴメンナサイ。私のわがままに付き合ったばっかりに・・・・・・」 落ち込むリシアを抱き締めながらスパイダーはそっと「気にするな」と優しく囁いた。 「お前が『一緒に駆け落ちしましょう』って来た時は流石にビックリしたけどお前のその覚悟、俺は嬉しいぜ」 「スパイダーさん・・・・・」 リシアは感極まり、両眼を潤ませながらスパイダーの胸にしなだれた。 そんなリシアの頭を優しく撫でながらスパイダーは語り掛け始めた。 「でもな、これは、逃げだ。それはお前も判っているんだろう? 俺と駆け落ちしようって言える覚悟があるなら何で根気よく父親を説得しなかったんだ。 お前の父親がどれだけお前を深く愛しているんだから絶対納得してくれるさ。 もし、思い付く行動全てを試してもダメだったら俺の所に来な」 スパイダーは照れながら 「これはデュオが言っていたんだけどな」と呟く。 「人ってのは、未知のモノ、困難なモノ、に立ち向かう勇気を持っていたからこそ、今日の繁栄があるんだってな。まっ、アンドロイドの俺が言っても説得力ないけどな?」 そう言うとスパイダーは微苦笑を浮かべた。 スパイダーの真意を理解したリシアはゆっくりだが力強く頷いた。 「あの、野暮でスミマセンがもうそろそろ良いですかね?」 倉庫の奥から不意にデュオが姿を見せた。 「本当に野暮な奴だぜ」 スパイダーはアイテムボックスから長柄の戦斧――――バルディッシュを喚び出した。 「ちょ、ちょっと、待って下さい。お二人に会わせたい人物がいるんですよ」 デュオの言葉に応えるように倉庫の奥から出てきた人物を見てリシアは目を丸くした。 「お父様!?」 リシアの父親は憔悴しきった顔でリシアに訊ねた。 「何故、婚約の話を断ったんだい?妻が死んでから十年。今の私にはお前だけが生き甲斐なのに・・・・・」 父親の言葉にリシアは一瞬怯むが大きく深呼吸するとジッと父親を見据えた。 「お父様、自分の伴侶は自分で選びます。お父様には本当に感謝していますし、お父様を裏切りたくないし、お父様を哀しませたくない。でも、これだけは決して譲れません」 リシアの意志のこもった言葉が倉庫内に響いた。 「だ、そうですよ?私的にはけっこうお似合いのカップルだと思うんですけど、ね?」 デュオは微苦笑を浮かべながらリシアの父親に言葉を掛けた。 リシアの父親はスパイダーを睨んだ。 「スパイダー君と言ったね。君はリシアのことをどう思っているんだ?」 その瞳は心底、娘の幸せを願う父親の瞳だった。 「俺はまだリシアのことを一人の女性として見られない。でも、リシアの覚悟を受け入れる覚悟も持っている。それよりも、アンタはどうなんだ? リシアはアンタのオプションじゃないんだぞ? 本当に娘を愛し、信じているのなら、リシアの気持ちぐらい尊重してやれよ。それが親ってもんだろ!!」 倉庫内にスパイダーの言葉が響き渡る。 「そうか・・・・」 リシアの父親は静かに呟いた。 「スパイダー君のこと好きかね?」 父親の言葉にリシアは「愛しています」と力強く答えた。 リシアの父親は何処か吹っ切れたように微笑むと一度もリシアの方を振り向くことなくデュオが出したリューカーの中へと消えていった。 「リシア良いのか?もう、帰れないぞ?」 スパイダーの言葉にリシアは「構いません。貴方となら何処までも」と呟くと 不意打ち的に自らの唇をスパイダーの口唇部位に優しく押し当てた。 リシアの突然の行動に驚くスパイダーの顔を見つめながらリシアは微苦笑を浮かべ「私のファーストキスです」と、はにかんだ。 「リシア・・・・・・」 スパイダーはリシアを優しく抱き寄せると首筋にそっと当て身を喰らわせた。 「スパイダーさ、ん・・・・・・・・?」 昏倒するリシアは優しく抱きかかえると「後のことは頼む」と言いながらデュオにリシアを渡した。 「スパイダーさん後は貴方次第ですよ・・・・」 デュオの言葉にスパイダーはリシアの顔を見ながら「ああ」と呟いた。 そして、黒い蜘蛛は夜の闇の中へと消えていった。 ――――数日後。 リシアはとあるダンスパーティー会場にいた。 純白のドレスを纏ったリシアの荘厳華麗な姿に周囲の紳士達は息を呑んだ。 「リシア=サーキュラス様ですね」 一人の青年が優雅な振る舞いでリシアに声を掛けた。 上流階級の御曹司らしい無意味に高価なスーツを纏った金髪を肩口まで伸ばした文句無しの美声年。 「もし、よろしければ、私とダンスでも・・・・・・」 リシアの前に跪き、右手の甲にキスしながら青年は甘く囁いた。 こうして青年は数多の女性を口説き落としていた。 その絶対的な自信が全身から滲み出していた。 だが、そんな青年の下心を知ってか知らずかリシアは微苦笑を浮かべると一言。 「光栄な申し出、有り難う御座います。でも、お断りいたしますわ」 「へっ??」 青年は思わず間抜けな声をあげてしまった。 「私、あるお方をお待ちしておりますの。それに、ダンスはそのお方とだけ、と心に決めておりますの」 そう言うとリシアは慈愛に満ちた笑みを青年に向けた。 呆気にとられた青年は左耳に黒色の蜘蛛をデザインした小さなイヤリングを付けたリシアの顔を只呆然と見つめていた・・・・・。 |
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− あとがき − 如何でしたでしょうか?PSO〜氷姫と黒い蜘蛛〜の続編にあたるPSO〜氷姫と黒い蜘蛛・2〜でした。 毎度のことですが誤字脱字があったらスミマセン。 さて、今回はスパイダーさんとオリキャラのリシアのラブロマンス(!?)に終始しましたので戦闘も派手な描写も控えめにしました。 そこら辺りを期待していた人は申し訳ありませんでした。(そんな人いないとは思いますが・・・・念のために一応) 後、スパイダーさんのラブロマンスモノにしたかったので、この話にはあえてデスJrさんを出演させていないことをご了承下さい。 しかし、最大の問題はこの作品をスパイダーさんが気に入ってくれるかどうかですね。 恋愛モノというのは人の好みがもろに出てしまうので人によっては本作のラストについて納得いかないと言う人も多いでしょう。 スパイダーさんは気に入っていただけたでしょうか? 後は全てスパイダーさん任せっていうかなり投げやり的なラストですけど? 気に入っていただけたら幸いです。 最後に、本作、ちゃんとラブロマンスモノになっていたでしょうか? そこら辺が大変心配です。 では、ここまで読んで下さって有り難う御座いました。 それでは、次回作で。 |