PSO〜ユカタの買い物〜 |
片桐 / 著 |
| 恒星間移民船団パイオニア2本船内の一角で月一回のペースで開かれている骨董市に出かけたフォマールのユカタはある一品を衝動買いしてしまった。 それは一冊の古書だった。 今では珍しい紙製の本。 見たこともない文字で書かれた本だったが十メセタという破格の値段だったためか思わず手に取ってしまった。 「良い買い物でした〜〜」 お団子頭にした青髪が白い法衣に良く映えていた。 露店でジュースを買いながら近くの公園のベンチに腰掛けて本を開いた。 やはり内容はさっぱり解らないがそれでもユカタは大満足だった。 両親の影響か、何故かユカタはこういう物が好きだった。 一通り本を見終えると同時に複数の男女がユカタの前に立った。 「あら、こんにちは〜」 ユカタの間延びした挨拶にもその一団は答えなかった。 「その本を渡してもらおう」 一団がパイオニア2軍部の制服を着ているのを見てユカタは僅かに眉をひそめた。 隊長らしき男の言葉にユカタは「イヤです」と即答した。 「正式な売買で購入した本を何故、貴方達に渡さなければいけないのですか?」 ユカタの言葉に男の一人が「これだからハンターは」と吐き捨てた。 「とにかく、渡してもらおう」 隊長らしき男が強引にユカタから本を取り上げようとした瞬間、ユカタが僅かに動いた。 ユカタは左手で隊長らしき男の右手首を掴むと軽く横に捻った。 隊長らしき男が宙を舞った。 「強引に奪おう何てちょっとオイタが過ぎますよ?」 口調こそのほほんとしているがその鋭い眼光は一団を圧倒していた。 ユカタは呻く隊長らしき男の襟章を見た。 階級は少尉。 「少尉さん、これ以上乱暴なことをするならちょっとオシオキしちゃいますよ?」 少尉は部下達に「やれっ!!」と叫んだ。 「戦闘は苦手なんですけどねぇ」 ユカタの言葉と共に一団とユカタの間の地面が爆ぜた。 爆発が収まった時にはユカタの姿はその場からジュースを残して消え失せていた。 「あの女、ノーモーションからラ・フォイエをかましやがった」 爆発に巻き込まれた複数の軍人達が地面で呻いていた。 パイオニア2内ではテクニックによる犯罪を抑制するために艦内全域に威力を軽減させる特殊なテクニックジュネレーターが設けられている。 ユカタはそれを計算に入れた上で自らの目眩ましと軍人達を行動不能に出来るようにテクニックを調整して放ったのだ。 少尉は苦虫を噛み潰したような顔をすると部下達にユカタの捜索を命じた。 「ふぅ、困りましたわねぇ」 完全に他人事の口調で呟きながらユカタは近くの茂みの中で様子を窺っていた。 ――――狙いは少尉一人。 発想の転換で遠くに逃げたと見せかけて近くの茂みの中に身を隠したユカタの思惑通り軍人達は蜘蛛の子を散らすようにユカタの捜索に散っていった。 本をアイテムボックスにしまうと同時に戦闘杖ブレイブハンマーを喚び出しす。 少尉はユカタが潜んでいる茂みに背を向けて一人愚痴っていた。 (チャンスですわ) ユカタは一気に茂みから飛び出すと少尉の尻目掛けてブレイブハンマーのハンマー部分を振り上げた。 少尉の聞くに堪えない悲鳴を無視してユカタは後から少尉の首を掴むと低位雷系テクニックであるゾンデを放った。 少尉は身体全体を小刻みに痙攣させながら気を失った。 ユカタは少尉が気を失ったのを確認すると少尉を担いでその場を後にした。 「あら、気が付いたのですね」 目を覚ました少尉は軍人らしく直ぐさま状況を確認した。 何処かの倉庫内と思われる場所に完璧に全身を緊縛され何故か右足だけ素足にさせられていた。 少尉の「ここは何処だ?」の問いにユカタは「秘密です」と答えた。 「少尉さん、何故、この本を狙うのですか?」 ユカタは少尉に先ほどの本を見せながら問い掛けた。 当然、少尉は沈黙。 ユカタは「仕方ないですね」と呟くと少尉の右足を持ち、足の一点を押した。 少尉の全身に激痛が襲った。 「あらあら少尉さん、内臓を痛めているんですね? 今のは胃のツボですよ」 そう言うと続け様に数カ所ほど先ほどとは違うツボを押した。 少尉はその場で悶絶した。 「判ったから、喋るから、止めてくれ」 「初めからそうして下されば良かったのに・・・・・」 「その本は古代錬金術が記された魔導書だ。我々はある人物に極秘裏にその本の翻訳を頼んだ。が、その人物が何を思ったのか知人に売ったのだ。我々は必死に調査し行方知れずとなったその本が今度の骨董市に出されることを掴んだが一足遅かった」 少尉の説明にユカタは携帯ナプキンで両手を拭きながら「お粗末ですね」と酷評した。 「このことは軍の極一部しか知らない。 それ故、事を大きくできない。そこで極秘裏に本を奪取するために本を購入したお前に接触したのだ」 説明が終わると同時に複数の武装した軍人達が庫内へとなだれ込んできた。 どうやら少尉の軍服の何処かに発信器があるようだ。 「如何にお前でも、これだけの数、終わりだな。おい、私を――――」 少尉は途中で言葉を失った。 軍人達は明らかにユカタと少尉に向かって銃口を向けていたからだ。 「口封じですか。一昔のスパイ映画じゃないんですら・・・・・」 ユカタはゆっくりと微笑んだ。 軍人達は一斉にユカタと少尉目掛けて引き金を引いた。 「ラ・フォイエ!」 ユカタは高位火系テクニックであるラ・フォイエを放ち、その爆発と爆圧で自分達に襲い掛かる無数のフォトン弾を全て弾き返した。 爆発の影響で庫内のスプリンクラーがが一斉に作動した。 水浸しになる庫内。 「そんなにこの本が欲しければこうしてあげますわ」 ユカタは目の前の軍人達目掛けて本を放り投げた。 「フォイエ!」 ユカタが放った低位火系テクニックであるフォイエの火球が本を撃ち抜いた。 「あぁ・・・・」 焼け落ちる本の姿を見て少尉が力無く呟いた。 ガックリと項垂れる少尉を見つつ、ユカタは目の前の軍人達に声を掛けた。 「動かない方が身のためですよ。この水浸しの庫内で私がラ・ゾンデを放ったらどうなると思いますか?」 その鋭い眼光に軍人達は一歩も動けなかった。 軍人達が一瞬怯んだ隙を見てユカタは直ぐさま転移系テクニックであるリューカーを発動させると同時に軍人達に向かって微笑んだ。 微笑みの意図を理解した軍人の一人が「止せっ!!」と悲痛な声をあげた。 「ダメです」 軍人達の間を雷撃が駆け抜けた。 呻き声を漏らしながら崩れ落ちる軍人達を見ながらユカタはリューカーの中へと消えていった。 「全く、勿体ないことをしましたわ」 リューカーを使って元の公園へと戻ったユカタは先ほど燃やしてしまったダミーの本を思い出して悔やんでいた。 急遽用意したダミー本とはいえ紙製の貴重な本であることには変わりない。 ユカタは十数人の軍人達を半殺しにしたことよりも一冊の本を燃やしてしまったことに心を痛めていた。 庫内でユカタが放ったのは致死率の高いラ・ゾンデではなく致死率の低い中位雷系テクニックであるギ・ゾンデだった。 ユカタはリューカーバイブ内が一種のテクニック障壁になっているという保険をかけた上で攻撃範囲が使用者の前方であるギ・ゾンデを選んだのだ。 「まっ、軍人さん達にはしばらく入院してもらうことになりますけど・・・・・・」 ユカタはくつくつと笑った。 色々、トラブルはあったものの総じて楽しいショッピングであった。 ユカタは大きく伸びをすると時刻を確認して一緒に住む妹達のために夕飯の材料を買いに行くのであった・・・・。 |
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− あとがき − 如何でしたでしょうか?PSO〜ユカタの買い物〜でした。 毎度のことですが誤字脱字の類があったらスミマセン。 ユカタさん出演依頼OKして下さって有り難う御座いました。 ジャンクさん、私はユカタさんとはあまり面識ないのでちゃんとキャラにあっているかどうか確認お願い致します。(キャラが違った内容でしたら再度書き直しますので) 何気に爽やか極悪系キャラ化していますが気を悪くしないで下さい、ね? 私もちょっとやり過ぎかなと今更ながら反省しております。 現在、デスJrさんの小説を書いている途中なので書き終えたらまたそちらに送りたいと思います。 それでは、ここまで読んで下さって大変有り難う御座いました。 また、次回作でw |