PSO〜サイレントキル〜

片桐 / 著



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――――午前九時半。
恒星間移民船団パイオニア2本船中央公園で演説をしていた総督府高官の一人が何者かに狙撃された。
 
――――午前十時。
公園警備を担当していた軍警察は高官を狙撃した狙撃手を一般居住区外れの廃ビルの中へと追い込んだ。

――――午前十時半。
軍警察特殊部隊精鋭十四名が狙撃手の逮捕のため廃ビル内へと突入するも、狙撃手が仕掛けたと思われる罠によって七名が犠牲になる。
 
――――午前十二時。
軍警察はハンターズギルドに狙撃手の生死を問わず身柄の確保を依頼した。
 
報酬は五万メセタ。
 
――――午前十三時。
現場にハンターズギルドを介して依頼を受けた二人のレイマールが到着した。


「ここが現場ですね」
 
そう言ったのはネコミミ型のヘアバンドをした金髪のレイマール。
 
まだあどけなさを残すその顔が廃ビルを睨んだ。

「あなた方が依頼を受けたハンターですか?」
 
現場責任者である大尉の言葉に金髪のレイマール――――サーガ=ノベルは「はい」と答えると微笑んだ。

「サーガ=ノベルです。こちらは同じレイマールのイリアさんです」
 
銀色の長髪をなびかせながらイリアは大尉に「よろしく」と一礼した。

「サーガさん。どう、見ますか?」
 
イリアは現場を眺めながらサーガに訊ねた。

「う〜〜ん。二手の別れて、一方が狙撃手を引き付けて、もう一方が内部に突入して狙撃手を逮捕するのがセオリーなんですけどねぇ」
 
サーガは唸った。
 
事件の経過を聞いて犯人である狙撃手はかなりの手練だということは銃器類のプロである二人には容易に想像できることであった。
 
しかも、事態は二人の予想以上に深刻だった。
 
二人から十メートルほど先に一人の警官が倒れていた。
 
狙撃手の第一発見者であり、罠によって犠牲となった特殊部隊員七名を除けば狙撃による二人目の被害者であった。

「如何にあの警官を助けつつ狙撃手に対抗できるか、ね・・・・」
 
イリアは下唇を噛んだ。
 
目の前の警官は辛うじて生きていた。
いや、狙撃手によって生かされていた。
 
あの警官はいわば生き餌である。
 
狙撃手は警官を助けようとする者を片っ端から狙撃するつもりらしい。

「大尉さん、ヒューキャストが使うダメージトラップはありますか?」
 
サーガの突然の言葉に面食らいながらも大尉は頷いた。

「成る程、考えましたね」
 
イリアは不敵に微笑むと長銃ウォルス−MkUを喚び出すと徐にフォトンカートリッジの出力を調整し始めた。

「何を・・・?」
 
部下のヒューキャストが持っていたダメージトラップをサーガに渡しつつ大尉はイリアに問い掛けた。

「フォトンカートリッジの出力を絞っているんですよ。こうすることで放たれるフォトン弾に実弾並のスピードを与えるんですよ。ジュネレーターの関係で弾数に限りが出来ちゃうんですね・・・・」
 
イリアの代わりに説明したのはサーガだった。
 
作業を終えたイリアはウォルス−MkUを肩に担ぐとサーガに視線を送った。
 
サーガは静かに頷くと大尉に「皆さんは後へ」と指示した。

「イリアさん、いつでもオッケーですよ」
 
サーガの揚々とした声音にイリアは微笑んだ。

「じゃ、始めましょうか」
 
イリアの声を合図にサーガは手にしたダメージトラップを空中へ放り投げると同時に既に喚び出していた赤身の小銃――――赤のハンドガンでダメージトラップを撃ち抜いた。
 
空中で凄まじい爆音を轟かせながらダメージトラップは爆発した。
 
イリアは一気に駆け出した。
 
爆炎と爆音を盾に目の前の崩れ掛けの壁の影へと滑り込んだ。
 
壁からウォルス−MkUを構えると視界の端でサーガが負傷した警官を抱えていた。
 
ピシリという音がイリアの直ぐ傍で鳴った。
銃弾が地面を叩いた音。
 
狙撃手が狙撃してきた。
それも、警官を助けようとしたサーガにではなく狙撃手を狙撃しようとしている自分に照準を合わせてきたのだ。

(挑戦状のつもりですか、面白い・・・・・・・)
 
イリアは着弾音から弾道角度と弾道軌道を逆算し、間髪置かずに狙撃ポイントと思われる場所へ向かって引き金を引いた。
 
狙撃手同士の狙撃戦では紙一重の差で一瞬で決着がつく。
 
狙撃される瞬間こそ狙撃する側は姿を現し狙撃体勢に入っているために身動きが出来ない、狙撃される側にとっては最大のピンチでもありチャンスでもあった。
当然、逆のことが狙撃する側にも言えた。
 
イリアは直ぐさま壁の影へと隠れた。
手応えというモノが感じられなかった。
 
隠れる瞬間、狙撃手のレーザーポインターの紅点を垣間見た。

 ――――狙撃手は生きている。
 
やがて、爆炎も収まり再び現場に静寂が訪れた。

「犯人はレイキャシールね・・・・」
 
たった一回の攻防でイリアは狙撃手の正体を大凡掴んでいた。
 
通常、有機生命体はあれだけの爆音と炎を見ると一瞬無意識に怯む。あの爆発の中で狙撃を正確に実行出来るのはアンドロイドの特徴だった。
 
後は、レーザーポインターの位置と狙撃手の体躯の予想から狙撃手はレイキャシールだという結果を導き出していた。
 
恐らくサーガも正体を掴んだのだろう。
自分と全く同じ結論に達している内容のメールが送られてきた。
 
横目で見るとサーガもライフルを構えていた。
恐らく牽制のためだろう。

「良し・・・・・・」
 
意識を集中させる。
 
針先のように、細く、細く、細く、精神を集中させる。
 
呼吸を整え、イリアは壁から半身を乗り出すと同時に引き金を引いた。
 
サイトスコープを介して狙撃手のレーザーポインターの紅点を見た。
 
放たれたフォトン弾が風を斬り裂きレーザーポインターの中へと吸い込まれていった。
 
紅点が散った。
(手応えあり・・・・)
 
不意にイリアは自分の右頬が薄く裂けて血が滲んでいることに気が付いた。
 
意識を狙撃に集中させ過ぎたために自分が狙撃されたことに気が付かなかったのだ。

「あらま、対応が速いこと・・・・」
 
大尉が部下を引き連れて廃ビル内部に突入する姿を見てイリアは呟いた。

「大丈夫ですか。イリ―――――」

駆け寄るサーガの背後で廃ビルが閃光に包まれた。
 
爆音と爆風。

「自爆したわね。死体を残すわけにはいかない、か・・・・」
「犯人は最近噂の裏ギルドが派遣したスナイパーでしょうか?」
 
サーガの言葉にイリアは「ですね」と頷いた。

「撃たれた高官も先ほど死んだって報せが入りましたし、裏ギルドに依頼した依頼主って一体誰なんでしょうね?」
 
呟くサーガをイリアは制した。

「それは私達の仕事じゃないですよ」
 
突然の言葉にイリアの顔をマジマジと見つめながらサーガはゆっくりと微笑んだ。

「さて、帰りましょうかイリアさん?」
「そうですね。報酬も手に入ったことですし今夜はハデに行きますか?」
 
イリアの言葉にサーガは「はいっ!」と返すと二人はその場を後にした。
 

――――後日。
ハンターズギルドから派遣された二人のレイマールの活躍によって狙撃手は戦闘不能に陥るも軍警察の一瞬の隙をついて黒塗りのレイキャシールは自爆。
依頼主との接点を断たれた軍警察の捜査は難航を極めた。
結局の所、捜査は暗礁に乗り上げ狙撃手と裏ギルドの関連性も事件の真相も深い闇の中へと墜ちていった・・・・。

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− あとがき −

如何でしたでしょうか。
PSO〜サイレントキル〜でした。
 
お楽しみ頂けましたでしょうか?
 
毎度のことですが誤字脱字があったらスミマセン。
 
それと、出演をOKして下さったイリアさんとサーガさんには多大な感謝を――――本当に有り難う御座いました。
キャラが違っていた時は「仕方ないなぁ」と大目に見て下さったら私的にはとても嬉しいです。
違っていたら申し訳ありません。
 
今回は静かな戦闘に終始苦心しました。
 
比較的ハデな戦闘が多い私の小説ではこの様な静かな戦闘は珍しいのでちゃんと表現できているか心配です。
 
それでは、次回作を楽しみにしていて下さい。
 
ここまでご愛読して下さって本当に有り難う御座いました。
 
それでは。

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