PSO〜少女と肉まん〜

片桐 / 著



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恒星間移民船団パイオニア2内で漆黒の法衣を着たフォマールと呼ばれるハンターのジュエルは朝一番で珍妙な人物に出会った。
 
真紅の髪をボブカットにした小柄なハニュエール。
 
自分と同じ褐色の肌を持つその少女はジュエルの姿を見つけると、両手を左右に振りながら上機嫌に駆け寄ってきた。

「みゃうみゃう」
「ミウちゃん、おはよう」
 
ジュエルは前屈みになりながらミウの頭を優しく撫でた。

「みうみう♪」
 
ミウは嬉しそうに両眼を細めた。

「どうしたの?まだ、朝の九時半よ?」
「みゃう!」
 
ミウはジュエルの右袖を引っ張りながらある一点を指差した。
 
そこには大きく『肉まん大安売りセール』と大きな看板が立て掛けられていた。

「肉まん、好きなんだ?」
「みゃ!」
 
ミウは何度も大きく頷いた。

「一緒に食べようか?」
「みう・・・・・」
 
ミウは何かを訴えかけるかのようにジュエルの顔を覗き込んだ。

「私はまだ暇だし大丈夫よ?」
 
ジュエルは微笑みながらミウの右手を握った。

「みゃう」
 
ミウの声音は嬉しそうだった。
 
二人が店の前まで来ると店の店主はミウの顔を見るや否や苦笑を浮かべた。

「ミウちゃん、いらっしゃい。本当にミウちゃんは肉まんが好きだねぇ〜〜」
 
ミウはズボンのポケットに入れていたありったけのメセタを店主の前に置いた。

「あいよ、いつも通り肉まん二十個ね」
 
店主は慣れた手付きで肉まんを次々と詰めていった。

「はいよ。また、来てね」
 
店主に自身の上半身ほどもある大きな紙袋を手渡されてミウは嬉しそうだった。
両手で紙袋を抱えながらヨタヨタと歩くミウの姿を見てジュエルは微苦笑を浮かべた。
 
二人は近くのベンチに並んで座るとミウは早速肉まんを一個取り出した。

「みゃう」
 
取り出した肉まんをジュエルの前に差し出した。

「くれるの?」
 
ミウは何度も大きく頷いた。
 
ジュエルは「ありがとう♪」と微笑みながら肉まんを受け取った。ミウは大きく口を開けながら一気に肉まんを頬張ろうとした瞬間、二人の横の銀行から閃光が爆ぜた。

「も、もう、来たの?」
 
襲いかかる爆風を予想してジュエルは咄嗟にミウを庇った。
 
二人に凄まじい爆風が襲い掛かり、買ったばかりの肉まんを詰めた紙袋が遙か彼方へと吹き飛ばされた。

「ミウちゃんはここに居てっ!!」
 
爆風が収まると同時にジュエルは駆け出した。
 
ジュエルはここ数日間ハンターズギルドの依頼で連続爆破銀行強盗団を追っていた。
 
連日の調査のおかげで次の標的が解り、ジュエルは朝一番でその場所を見張っていたのだった。
猛煙の中を突っ走ると暗視ゴーグルに黒タイツと見るからに強盗団の一味と思しき男と目線があった。
 
ジュエルは至高の戦闘状――――サイコウォンドを喚び出すと緑色の髪を振り乱しながら乱暴に振り下ろした。
 
槍の穂先に似た部位が男の首筋に命中。
男は白目を剥いて地に倒れ伏した。
 
ジュエルは脇目もふらずに目の前のエアカーに向かって右手をかざした。
 
恐らく目の前のエアカーは強盗団が逃走用に用意した物だろう。
 
その証拠に運転手は先程の強盗と同じ格好をしていた。

「ラ・フォイエッ!!」
 
ジュエルはエアカーに向かって火系高位テクニックであるラ・フォイエを叩き込んだ。
 
圧倒的な爆風と爆圧がエアカーを吹き飛ばした。

「動くなっ!!」
 
ジュエルはサイコウォンドを構えながら振り返った。
 
目の前には強盗が三人。
中央の強盗は一人の少女を人質に取っていた。

「ミウちゃん!」
 
ミウは人質である自分の立場を解っていないのかジュエルに無邪気に手を振りながら右手に持っていた肉まんを食べようとした。

「この野郎、ジッとしてねぇか!!」
 
右端の強盗がミウが食べようとした肉まんを強引に取り上げ目の前で踏みつぶした。

「み?」
 
ミウは呆然と踏みつぶされた肉まんを見ていた。

「ハンターさんよ、動くなよ?動いたら人質は殺すからな!」
 
中央の強盗は人質の少女が肩を震わせながら泣いていることに気付いた。

「みゃゃゃゃぁぁああああぁぁぁぁぁっ!!」
 
ミウは大粒の涙を流しながら泣き叫き始めた。
 
次の瞬間、ジュエルは戦慄した。
 
三人の強盗達の姿がグニャリと歪むと同時にその姿が忽然と掻き消えたのだ。

「な、何が起こっているの!?」
 
ミウの泣き声は更に激しさを増すと同時に空中に複数の魔法陣が出現し、その魔法陣全ての中から何か得体の知れないモノがゾロリと這い出してきた。
 
それは遙か昔の神話に登場する異形の怪物だった。
 
更にジュエルの真横の道路の路面上に直径十メートルほどの魔法陣が出現した。

「まさか、ミウちゃんが召喚している、の!?」
 
異形の生命体は既に十数体に増えていた。
それぞれが独立した意識があるらしく辺りの建造物を破壊し始めた。

「ミウちゃん・・・・・」
 
最早、原因は明白だった。
原理は解らないがミウが泣くことによってこの異変を引き起こしているのならば止める手だては一つしか考えられなかった。
 
ジュエルは怪物達の攻撃を巧みにかわしながら先ほどの肉まん屋に駆け寄った。

「ミウちゃんの《能力》、久しぶりに見たよ!」
 
店主は次々と現れる魔法陣と異形の怪物を見て苦笑した。

「もしかして、店主さんって・・・・・」
「ああ、私も闇の眷属《ナイトウォーカー》でね。ミウちゃんの片割れのデュオ殿に助けられてね。今もあの人の便宜でこの店をやっているんだ」
 
魔法陣からハッキリと視認可能な黒い風が吹き出していた。
その黒い風を見て圧倒的な恐怖感と不安感がジュエルを襲った。

「デュオ殿は、ミウちゃんは何の補助もなしに複数の異次元の扉を開閉させることが出来るらしいんだ」
「じゃあ、あの時、空間が歪んで見えたのは・・・・・・」
 
店主の言葉にジュエルは強盗達の姿が掻き消えた瞬間を思い出した。

「次元の彼方に吹き飛ばされたんだ・・・・」
 
数秒間、唖然としていたジュエルだが頭を左右に振ると店主に向かって叫んだ。

「お金は後で払いますから肉まんを一つ下さいっ!!」
 
店主は身を屈めながらジュエルに肉まんを一つ手渡した。

「店主さんも安全な所に避難して下さい」
 
店主の「そうするよ」の声を後から聞きながらジュエルはミウに駆け寄った。

「ミウちゃんっ!!」
 
ミウは相変わらず大声をあげながら泣き叫いていた。

「ミウちゃん、一緒に肉まん食べよ」
「みっ?」
 
ミウはピタリと泣き止んだ。
そして、それに呼応するかのように全ての魔法陣と異形の怪物達が一斉に塵へと変化し消えていった。

「ほら、一緒に食べよ?」
 
優しく微笑みながらジュエルは肉まんを二つに引き裂いて片方をミウに差し出した。
 
ミウは上機嫌で肉まんを受け取った。
 
ジュエルは美味しそうに肉まんを頬張るミウと辺りの惨状を見比べながら大きく溜息をついた。

そして、そんなジュエルの心情を知ってか知らずかミウは肉まんを無邪気に頬張り続けるのだった・・・・・。

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− あとがき −

如何でしたでしょうか?
PSO小説〜少女と肉まん〜は?

お楽しみ頂けましたでしょうか?
 
今回は『ミウの能力の一片を紹介する』というコンセプトで書きました。
 
上手く表現されていればよいのですが・・・・・・
 
まぁ、とりあえずこの話を紹介しないと先へ進めないので送れて本当に良かったです。

余談ですが二月十五日深夜二時二五分(関西圏の時刻です)から毎日テレビで放送されているアニメ、ガンパレードマーチ(以下ガンパレ)は本当に面白かったです。
 
元々はPSソフトだったのですがアニメ化されて本当に良かったです。
 
内容は完全にゲームとは別物のオリジナル作品と化していますがそれはそれで私的にOKです。キャラの特徴がそれなりに上手く表現されていて嬉しかったです。
 
何せ、この作品をきっかけに私は小説を書き始めたモノでしてw
 
私の作品は今ではPSO主体ですが以前はガンパレの作品が多数を占めていました。
 
とにかく、これからリアル鑑賞&ビデオ録画に四苦八苦しそうです。(時間帯が時間帯だけに・・・)

 
――――スミマセン、年甲斐もなくはしゃいでしまいました。
 
私の勝手な独白だと理解して下さい。
 
独白の部分のアップはジャンクさんに一任します。
不快に思われたのなら削除しても良いです。

それでは、ここまでご愛読して下さって有り難う御座いました。

また、次回作でw

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