PSO〜氷姫と黒い蜘蛛〜 |
片桐 / 著 |
| 漆黒のフォルムを持つヒューキャストのスパイダーはさっさと晩ご飯をゲットした仲間の姿を見て悪態をついた。 どう見ても自分はこの場所に不釣り合いだった。 豪勢なシャンデリアに煌びやかな服装に身を包んだ紳士淑女。 そして、目の前に置かれている見たこともない豪華な料理の数々。 とある総督府高官主催のダンスパーティーに、とある目的で参加したスパイダーは今更ながら依頼を受けたことを後悔していた。 一緒に依頼を受けた仲間――――闇の眷属《ナイトウォーカー》古吸血鬼種のデュオはさっさと世間知らず風なお嬢様を口説き落とすと会場を後にした。 これから食事タイムなのだろう。 スパイダーは舌打ちしながら会場の直ぐ裏のテラスに出た。 「これだからブルジョアは・・・・」 「何をしているの?」 スパイダーの直ぐ右隣に純白のドレス纏った美少女が立っていた。 蒼い長髪に雪のように白い肌の彼女は抑揚のない表情のためか、必要以上に冷たく希薄な印象をスパイダーに与えていた。 「貴方、お父様に雇われた護衛のハンターさんでしょ?」 「うい」 スパイダーは少女の問い掛けに気怠そうに答えた。 少女はここ数日何者かに命を狙われ続けていた。 そこで少女の父親は殺し屋の排除をスパイダーとデュオに依頼してきた。 「私の命なんて、紙屑同然なのに、馬鹿なお父様――――」 自嘲気味に呟く少女の言葉を遮ってスパイダーは少女の胸ぐらを掴むと乱暴に自分の顔に引き寄せた。 「紙屑同然の命なんてねぇよ。命の価値ってやつは命を使う奴の意思の価値だ。命そのものに価値なんてねぇ。お前は大切な人が死んでも同じ台詞を言えるのか?お前を想ってくれる奴に同じことが言えるのか?」 スパイダーの双眸は静かな怒りを秘めていた。 今まで倒れていったかけがえのない仲間達の姿が脳裏をよぎる。 「――――俺は」 スパイダーはハッと我に返った。 少女は大きく目を見開きながらスパイダーの顔をジッと見つめていた。 スパイダーは少女を離すと少女は数秒スパイダーの顔を見つめると無言のままパーティー会場へと戻って行った。 「お見事な口上でしたよ」 頭上から聞き慣れた声音が響いてきた。 「ありがとさん」 溜息をつきながらスパイダーは頭上を見上げた。 目の前に一人の青年が浮かんでいた。 赤い長髪を弄りながらデュオは微笑んだ。 「あの冷たい無表情から“氷姫”と呼ばれていたあの子が・・・・ひょっとしたら、スパイダーさんに惚れたのかも?」 上下逆さまに浮かびながらデュオはくつくつと笑った。 「馬鹿なこと言ってないで護衛につけよ」 デュオは微笑む。 「パーティーはお開きのようですね。私は父親の護衛に行きます」 「ちょ、ちょっと待てよ。何で父親をっ!?」 「あの子は陽動の目的で狙われているのかもって思っただけですよ。それに――――」 「それに?」 「あの子の護衛はスパイダーさんの方がお似合いですしね♪」 眼下で暴れるスパイダーの姿を見てデュオは小悪魔っぽい笑みを浮かべた。 結局、デュオと別れたスパイダーは少女の乗るリムジンに乗り込んだ。 スパイダーは後部座席。 何故か少女の横に座らされた。 「・・・・・・・・・・・」 車が発進しても二人は沈黙を守ったままだった。 軽く苛つきながらスパイダーは車外の流れる景色を眺めていた。 「ごめんなさい」 少女の突然の言葉にスパイダーはギョッとした。 「私、貴方に辛い思い出を――――」 デスは少女の言葉を遮って一言。 「気にするなよ。お前は別に悪くねぇよ」 照れながら答えるスパイダーの姿を見て少女がフッと微笑んだような気がした。 「そういや。まだ、お前の名前を訊いていなかったな」 「ハンターさんのくせに呆れました」 「そう言うのはデュオの奴に任せっぱなしだっ――――」 スパイダーの視界の端で陽炎のように大気が揺らめいた。 「キャッ、こんな所で、私、初めてなのに・・・・」 問答無用で少女を押し倒しながらスパイダーは「馬鹿なこと言ってんな!」と叫んだ。 スパイダーの身体の上を銀線が煌めいた。 「逃げるぞ」 右腕で少女を抱えながらスパイダーは車外へと飛び出した。 着地すると同時にリムジンが爆発した。 運転手の安否を構っている暇はなかった。 「チッ、光学迷彩か!?」 透過能力を持つ迷彩を施した殺し屋は正確にスパイダー達に襲いかかった。 「クッ!!」 流石に少女を抱えながら逃げ回るには限界があった。 一瞬の油断を突かれてスパイダーの左腕上腕部が半ばから切断された。 「ハンターさんっ!」 殺し屋の斬撃を紙一重でかわしたスパイダーは少女の悲痛な声で初めて少女が泣いていることに気付いた。 “氷姫”と呼ばれた少女が大粒の涙を流していた。 「もう良いの! 私が死ねば、ハンターさんは傷つかなくて済むなら!もう嫌なの! 私の目の前で人が死ぬのは! もう、お母様だけで充分なの・・・・・・・・・・」 少女が表情を捨てたのか理由をスパイダーは理解した。 「安心しな、俺は死なないし、お前も殺させはしない。何せ、俺はスペシャリストだからな」 少女を地面に降ろすと右人差し指で少女の涙を拭いながら優しく目を細めた。 そして、スパイダーは赤い剣身の片手剣――――赤セイバーを喚び出した。 少女から数歩離れるとスパイダーはその時を待った。 ――――そして。 スパイダーは少女に向かって振り向くと虚空を水平に瞬斬し突いた。 虚空から電光が漏れた。 「何故、解った・・・?」 光学迷彩の効果が消失したのか虚空から両腕を切断され背後からスパイダーの赤セイバーに刺し貫かれている蒼白いフォルムを持つヒューキャストが出現した。 「アンタの斬撃からアンタがプロだと解ったからな。後は簡単さ。俺がスペシャリストであると同時にアンタもスペシャリストだ。アンタの標的は少女であって俺じゃない。間合いを空けると必ずその間に割り込んでくると思っていたぜ」 少女はスパイダーの説明に目を見開いて驚いていた。 「ふ、不覚・・・・」 殺し屋はその場に崩れ落ちた。 「ハンターさん、大丈夫ですか!?」 スパイダーのマシンブラッドによってドレスが汚れるのにも構わずに少女はスパイダーに駆け寄った。 「気にすんな。非道いのは見た目だけだからな」 スパイダーは少女を安心させようとあえて戯けた調子で答えた。 「この人は何故私を・・・?」 「さぁな。とりあえず、お前が狙われる心配がなくなったのは確実だけどな」 「その、有り難う御座いました・・・・・」 少女の顔が曇った。 スパイダーはそんな少女の顔を見ながら呟いた。 「なぁ、そう言えば名前、訊いてなかったよな? 名前、教えてくれよ?」 「リシア。リシア=サーキュラスです」 少女――――リシアの名を訊いてスパイダーは「良い名だ」と微笑んだ。 「俺の名はスパイダー。しがないヒューキャストさ」 スパイダーが地面に座ると同時に二人の背後から複数の声が聞こえてきた。 振り向くとリシアの父親とその護衛達とデュオがこちらに向かってくる姿が見えた。 「全く、遅すぎるんだよ。彼奴等は・・・・・」 悪態をつくスパイダーの姿を見てリシアは微苦笑を浮かべた。 「やっぱりお前さんは微笑んでいた方が良い。充分、可愛いぜ?」 スパイダーの言葉を聞いてリシアの顔が朱に染まった。 照れるリシアの姿を見てスパイダーは思わず吹き出してしまうのだった・・・・。 |
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− あとがき − 如何でしたでしょうか?お楽しみ頂けましたか? PSO〜氷姫と黒い蜘蛛〜でした? 毎度のことですが誤字脱字がありましたらスミマセン。 今回はとにかく少しラブ気な雰囲気を出しながらスパイダーさんを格好良く見せることに苦心しました。 格好良かったでしょうか? 個人的にはかなり格好良くできたと思っているのですど・・・。 不快な思いをしなければいいのですが・・・・。 さて、次回はどの様な作品を送るかはまだ未定です。 私的には『ミウ小説・2』か『デュオ小説(GC版初登場)』の二点のどちらかにする予定です。(他に良い作品が出来たらそちらを優先させるかも) いつ送るかは未定ですので出来ることなら気を長くして待って欲しいです。 それでは、ここまで呼んで下さって有り難う御座いました。 では、次回でw |