PSO〜少女とアイスココア〜

片桐 / 著



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その日、恒星間移民船団パイオニア2第六随伴艦第七ブロック五階層目に開かれているカフェ『カフェ675』に珍客が訪れた。
 
店内に入ってきたのは褐色の肌に燃え上がるような真紅の髪をボブカットにしたそこいらのバーチャルアイドルなんぞ一蹴してしまうほどの可愛らしさを持った小柄なハニュエールが一人。
 
一〇歳前後の体躯と容姿を持ったハニュエールの少女は店内をキョロキョロと見回すとカウンターの一席に座った。

「いらっしゃいませ。何に致しますか?」
 
ハンターの一種でヒューキャストと呼ばれるアンドロイドが笑顔で注文を訊ねた。
 
白銀色のフォルムを持つマスターは少女を優しく見つめた。

「みゅ?」
 
不思議な声音だった。
人を安らげる不思議な響きがあった。

「何が飲みたいですか?」
 
マスターは目の前の少女に親切丁寧にオーダーブックを差し出した。
 
少女は「みう?」と言いながらオーダーブックを凝視し一つの飲み物を指差した。

「はい。アイスココアですね」
 
マスターは慣れた手付きでアイスココアの用意を仕始めた。
 
その時、カフェの扉が開き数人の男女が入ってきた。
 
店内に入ってきたのは何やら口論している翡翠色の髪をポニーテールにしている整った鼻梁のハニュエールと漆黒のフォルムのヒューキャスト。
その後でウンザリ顔で項垂れている赤い髪を三つ編みにワンレン状にしているヒューマーと
その後で苦笑している褐色の肌に漆黒の法衣を着ているフォマールの少女の四人。

「いらっしゃい。どうだった、依頼は?」
 
マスターの問い掛けに「見ての通り」と肩をすくめたのはヒューマーのジャンク。
その後でジャンクの愛娘でフォマールのジュエルが頷いた。
 
四人は翡翠色の髪をポニーテールにしているハニュエールのミントの誘いであるギルドの依頼を受けたが、依頼主の裏切られて散々な目のあってしまった。
 
その中で一番割を喰ってしまったのが漆黒のヒューキャストのスパイダーだった。
 
ジャンクの簡単な説明を受けてマスターは「ご愁傷様」と苦笑しながら出来立てのアイスココアを差し出した。

「あら、新顔ねっ?」
 
その時になって初めて四人は少女の存在に気付いた。
 
ミントは少女の顔を覗き込んだ。

「みゃう?」
 
少女はミントの顔を見つめながら首を傾げた。

「カ、カワイイッ♪」
 
ジュエルは思わず後から少女に抱きついてしまった。

「みゃうん♪」
 
少女は上機嫌でジュエルの頬に頬擦り。

「君、名前は?」
 
スパイダーの問い掛けに少女は自らのギルドカードを送信した。

「へっ??」
 
スパイダーは自分に送られてきたギルドカードを見て
間抜けな声をあげてしまった。

「どうした?」
 
ジャンクが覗き込んだ。
 
少女のギルドカードをスパイダーは既に持っていた。
 
カードのネーム欄には良く見知った者の名前が記入されていた。

「デュオ=アライブ・・・・・」
 
その名は最近登録名を変更した知り合いのヒューマーの名だった。
 
三五〇〇年以上も生きている正真正銘の化け物。
闇の眷属《ナイトウォーカー》の中でも最も高貴な種とされている古吸血鬼。それが彼の正体だった。
 
そのデュオの名が書かれていた。

「どういうこと?」
 
ミントはジャンクの顔を見た。
 
四人の中では一番親交の深いジャンクでさえ「さあ?」と首を傾げた。

「式神か何かじゃないの?」
 
ジュエルは少女を後から抱きしめたままジャンクに問い掛けた。

「う〜〜〜ん」
 
四人は互いの顔を見ながら低く唸った。

「我ハデュオの式ガミではナイ」
 
その声に、一瞬、反応できなかった。

「我ハでゅお、デュオはワレ。我ハみウ。デュオの片割れ」
 
その言葉は少女の口から発せられた。

「貴方とデュオが同一人物??」
 
信じられない、といった表情でミントはミウに問い掛けた。

「ワレラハ二心同体」
 
ミウはシレッと答えた。
 
同一人物だと言われてもあまりにも体格に差が開きすぎていた。
 
一同は更に首を傾げた。

「むう。信じてもらえヌカ?」
 
再び一同が顔を見合わせた瞬間、カフェの扉が乱暴に開かれた。
 
店内に入ってきたのは三人のヒューマー。
それぞれが手にハンドガンを持っていた。
 
四人には三人の顔に見覚えがあった。
 
先程、裏切った依頼主をボコボコにした際に一緒にボコッた護衛達であった。

「伏せろっ!!」
 
マスターの声に四人は即座に反応し身を伏せた。

「ミ、ミウちゃん!?」
 
三人の刺客を軽く無視しながらミウはアイスココアを啜っていた。

「みゅ?」
 
ストローから口を離したミウは切羽詰まりながら自分の名を叫んだジュエルを見た。
 
その時、一番左端の刺客がハンドガンの引き金を引いた。
 
放たれたフォトン弾がミウが飲んでいたアイスココアの入ったグラスに命中した。
派手な音と共にグラスが砕けミウの着ている服にアイスココアがかかってしまった。

「みゃ」
 
ミウは数秒アイスココアに濡れた服と床に砕け散ったグラスの破片を見ていた。
 
そして――――。

「みゃぉぉぉぉおおおおん!!」
 
伏せていた一同がミウの甲高い声を聞いた瞬間にはミウは一番左端の刺客の顔面にドロップキックを喰らわせていた。

「こ、こいつっ!!」
 
突然の反撃に中央の刺客――――新しく一番左端になった刺客が呻いた。
 
自分に向けられた銃口を見たミウは空中で身を捻ってハンドガンの銃弾をかわした。

「みゃうん!」
 
気合い一閃。
 
ミウの右回し蹴りが刺客の胸部中央に命中。

「ヒ、ヒッ!!」
 
崩れ落ちる仲間を見て最後に残った刺客が短い悲鳴を放った。
 
最後の刺客はハンドガンを投げ捨ててその場から一目散に逃げ出した。

「みゃう!!」
 
ミウはまるで「待てっ!!」と言わんばかりの声をあげながら直ぐ傍の歩道に違法駐車されている工業用大型エアダンプを片手で軽々と持ち上げた。

「う、嘘だろ・・・・・」
 
まるで紙細工を持つかのように大型エアダンプをブンブンと頭上で水平に振り回すミウの姿を見てスパイダーは絶句した。
 
そして、最後の刺客目掛けて勢い良く放り投げた。
 
大型エアダンプは放物線すら描かずに刺客の後を正確に追っていった。
 
数秒して遙か前方で最後の刺客の悲鳴と大型エアダンプの爆発音が聞こえてきた。

「みゃうん♪」
 
少女は両手についたホコリを払いながら上機嫌に一言。
 
あまりに常識外れの怪力。一同はミウとデュオが二心同体であるという事実を何となく納得できた。

「呆れた・・・・・」

「のはこっちの方だ」
 
ミントの言葉を遮ったマスターの低い声に四人は戦慄した。

「キッチリ、依頼の後始末はつけておくよう、にっ!!」
 
ミウの反撃に移ってくれたおかげで店の損害はグラス以外は奇跡的にゼロだった。
 
ガックリと項垂れる四人の元へと駆け寄ってきたミウは不思議そうな表情を浮かべ「みゅ?」と言いながら首を傾げるのであった・・・・。

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−あとがき−

お楽しみ頂けたでしょうか?
 
今年初の投稿小説PSO〜少女とアイスココア〜は?
何時もの如く誤字脱字の類があったらスミマセン。

さて、今回の話で初登場したミウは如何でしたでしょうか?
見た目は子供ですが精神年齢はもっと子供です。

ミウのコンセプトは「可愛い」「小動物系」「謎」の三つです。

そして、最大のコンセプトが「貴方はそれでも人を愛せますか?」です。
 
これらのことは追々小説で紹介していけたらと考えております。
 
ミウは更に凄い能力と謎を秘めています。
(ただの怪力馬鹿小娘ではありません)
 
これからミウのこと宜しくお願いいたします。
 
次回は『デスさん小説』か『ミウ小説』のどちらかを予定しております。
 
それでは、ここまでご愛読して下さって有り難う御座いました。
 
次回作で。

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