PSO〜フェアリースマイル〜

 片桐/ 著



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恒星間移民航行船団パイオニア2本船内最先端に位置する地下街の一角に建っているドーム型の建造物の中から割れんばかりの歓声が響いた。
 
ドーム内は見渡す限り、人、人、人の山である。
そして、皆の視線は何かに取り憑かれたように二人の男に注ぎ込まれていた。
 
ドームの中央部。
まるで古代のコロッセオを思わせるその場所に立っているのは蒼白のフォルムの長身痩躯のアンドロイドとワインレッド色の髪をポニーテールにしている精悍な顔つきの男。

「何でお前がここに居るんだ?」
 
蒼白のアンドロイド。ヒューキャストのデスは目の前の男を見てウンザリした。

「そう言われてもな・・・・」
 
精悍な顔つきの男。
ヒューマーのジャンクは呆けた調子で答えた。

「あれが目的なのは一緒か・・・・・」
 
デスはここで開催されている非合法の武闘大会の優勝商品を見た。
 
不思議な文字が書かれた小瓶。
しかし、問題は小瓶ではなくその中身だった。

「本物の妖精か・・・・」
 
小瓶の中に閉じこめられているのは正真正銘の妖精だった。
知り合いで三千五百年以上も生きている古吸血鬼のヒューマーのデュオが保証するのだから恐らく本物だろう。
 
そして、デスはそのデュオの依頼でこの武闘大会に参加していた。

次々と対戦者を秒殺していったデスは難なく決勝の舞台に立つことが出来た。
 
そして、旧知の仲であるジャンクと相対することになってしまった。

「ジャンク。お前、デュオに依頼されてこの大会に参加したんじゃないだろうな?」
「・・・お前もか?」
 
ジャンクの言葉にデスは頭を抱えた。

「何か企んでいるな。アイツ・・・」
 
デスの言葉にジャンクが首肯した。
と、同時に巨躯の男が大きな銅鑼を鳴らした。
 
試合開始の合図。
 
自然と二人は身構えた。

「まぁ、何だ。とりあえず、勝たせてもらう」
 
ジャンクの言葉にデスは「こっちの台詞だ」と答えた。
 
デスはアイテムボックスから長柄の大鎌―――ソウルイーターを喚び出し、
ジャンクは紫紺の刀身を持つ刀―――ヤミガラスを喚び出した。
 
二人の間の空気が一瞬にして張り詰める。
 
そして、二人同時に地を蹴った。
 
先に仕掛けたのはジャンク。
 
ヤミガラスを下段からデスの左首筋目掛けて斬り上げた。

「!」
 
デスはジャンクの攻撃をかわすのではなく、むしろ、更に加速しながらジャンクに体当たりした。
 
バランスを崩すジャンク目掛けて大鎌を振り下ろす。

「なろっ!!」
 
ジャンクは咄嗟に右掌底で振り下ろされた鎌刃を左で捌くと同時に身体を捻ってコンパクトな左脚を軸に蹴りを放った。
 
デスはすかさず左肘を振り下ろしてジャンクの右脚を叩き落とした。
 
地面に倒れ込んだ自分目掛けて振り下ろされる鎌刃を見たジャンクはヤミガラスを投げ捨てると寸での所を両手で鎌刃を挟んだ。

「真剣白刃取り・・・デュオに習っといて正解だったな・・・・」
 
ジャンクは両掌に力を込めて鎌刃を半ばから折った。
 
デスはソウルイーターを諦め、ジャンクの反撃を警戒して後へと跳躍した。

「厄介極まりないな」
 
デスは新たに赤刃の双短剣―――赤ダガーを喚び出した。
 
数回、フェイントを混ぜながらデスはジャンクの元へと一気に駆け寄った。
 
ジャンクはヤミガラスに代わって赤刃の大剣―――赤ソードを喚び出すと同時に一気にデス目掛けて振り下ろした。
 
デスは両手に持っている赤ダガーを交差させて赤ソードを真正面から受け止めながらそのままの体勢で疾駆。
 
ほぼ零距離にまで距離を詰めると同時にデスの右膝がジャンクの腹部にめり込んだ。

「ガハッ!!」
 
赤ソードでは接近戦に不利だと瞬時に悟ったジャンクは赤ソードに代わって赤色の二丁マシンガン―――赤マシンガンを新たに喚び出すと躊躇いもなく一気に引き金を引いた。
 
デスもジャンクの動きに呼応するかのように赤ダガーの代わりに赤ソードを喚び出すとその分厚い刀身を盾代わりにした。
 
赤マシンガンから吐き出されたフォトン弾が赤ソードを穿つがそこにデスの姿はない。
 
デスの姿を見失ったジャンクだったが背後から鋭い先を感じ振り向いた。
 
振り向いたジャンクの眉間にデスが新たに喚び出した赤マシンガンが突き付けられた。が、ほぼ同時にジャンクもまたデスの眉間に赤マシンガンの銃口を突き付けていた。

『やるな』
 
二人の声が重なる。
 
この数十秒間の攻防を観戦していた観客達はすっかり魂が抜けたかのように二人の戦いに魅入られていた。
 
静寂がドーム全体を包み込んだ。
 
二人がまさに千日手の体勢に入った瞬間、静寂を斬り裂くかのような叫び声が会場全体に響いた。
 
二人はほぼ同時に叫び声が聞こえた方向を向いて唖然とした。
 
そこには優勝商品である妖精を封じ込めた小瓶を抱える一人の青年がいた。
 
長身痩躯の金髪の髪をポニーテールにした青年。

『デュオ・・・・』
 
ある意味で予想通りの展開に二人は同時に疲れたように青年の名を呟いた。

「このフェアリーは私が有り難く頂戴します」
 
デュオは優雅に微笑むと優勝商品を取り返そうと駆け寄って来た屈強な男達の間をすり抜けジャンクとデスの元へと一気に疾駆。
 
闘技場内へと入ったデュオは観衆に気付かれないように二人に向かって軽くウィンクすると二人の間を駆け抜けて選手入場出入り口内へと消えていった。

「ジャンク、アイツの狙いってまさか・・・・・」
「俺達をオトリにして優勝商品である妖精を盗むつもりだったんだな・・・・」
 
不意にデスの聴覚センサーに治安機構特有のサイレン音が聞こえた。

「ジャンク、やばいぞっ!デュオの奴、治安機構に通報しやがったっ!!」
 
デスの言葉にジャンクは「パニックに乗じて逃げるぞ」と呟いた。
 
その後、二人は命からがら治安機構が踏み込んできたことによってパニックに陥った会場から逃げ出すことに成功した。
 
行くアテもない二人の足は極自然と第六随伴艦第七ブロック五階層目にあるカフェ『カフェ675』へと向かった。
 
数分後。
二人がカフェの扉を開くとカウンターでデュオが優雅にお茶をすすっていた。

「お疲れさまでした」
 
 デュオの言葉に軽い殺気を覚えながら二人はデュオに詰め寄った。

「俺達を利用したな」
「申し訳ありませんでした。お二人にはどうしても会場内にいる全ての人々を魅入らせる試合をしていただきたかったので・・・本当のことは話せませんでした」
 
頭では理解しても心情的に理解できない二人の目の前に優勝商品だった妖精が舞い降りた。
 
妖精の瞳は何かを懇願するかのようだった。

「判ったよ。今回はこの妖精に免じて許してやるよ」
 
デスは何処か投げやりに答えた。
ジャンクも横で苦笑しながら首肯した。

「この子は惑星ラグオルで初めて誕生した妖精なんです。
始祖の妖精はやがて妖精王となって惑星ラグオル全体の自然を霊的に守護します。
あのまま捕まったままでは惑星ラグオルの自然は緩やかな自滅への道を歩んでいたでしょう・・・・・」
 
デュオの説明を二人は半分も理解していなかったがとりあえず頷いた。

「でも、今回の一件で面白いことが判りましたよ」
 
デュオの言葉に二人の顔が僅かに青ざめる。
 
デュオの『面白いこと』には大抵ロクでもないオマケが付いてくることが多い。

「俺達には言うなよ」
 
ジャンクは真剣な顔で言い放つ。
これ以上、巻き込まれるのは勘弁して欲しかった。

「そんな。お二人とも水臭いですよ」
 
意味深な笑みを浮かべながらデュオは二人に躙り寄った。

「その笑みは止めろっ!その笑みはっ!!」
 
デスとジャンクは後ずさりながらカフェ内を逃げ回った。
 
デュオから逃げまどう二人の姿を見て妖精は無邪気な笑みを浮かべた。
本当に美しく慈愛に満ちた笑みであった・・・・。

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−あとがき−

如何でしたでしょうか?
 
PSO〜フェアリースマイル〜でした。
 
前作PSO〜血戦〜の直後に作り上げたので内容は殆ど被っています。
 
また、前回同様、戦闘シーンメインの話なので表現描写が私のうっかりミスで間違っている可能性があるので一応気を付けて下さい。
 
また、誤字、脱字があったらスミマセン。
 
次回は以前お話ししていたデスさん中心の超シリアスストーリーです。
 
まだ、書き始めたばかりなので完成は今しばらく後になると思います。
 
本当にナイトメア編も送らずに新作ばかり・・・・スミマセン・・・・。
 
こんな私ですがまた小説を読んでいただけると嬉しいです。
 
それでは、ここまでご愛読して下さって有り難う御座いました。
 
では、次回作でw

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