PSO〜クリティカル・クッキング〜

片桐/ 著



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玄関の扉を開けると全身ホコリと擦り傷まみれの見知った二人の少女が無邪気な笑みを浮かべながら立っていた。

「お、おかえりなさい」
 
玄関を開けたのは青髪をポニーテールにした青年。
白色の無地のワイシャツに濃紺のジーンズのラフな姿をしている優男然とした青年だ。

「メイファさん、遅かったですね?」
 
赤と白色の法衣を着た美少年然とした少女のメイファは、ここ恒星間移民船団パイオニア2内でフォマールと呼ばれるハンターの一種を生業としていた。

「食材を選んでいたら、遅くなっちゃって」
 
メイファは意味深な笑みを浮かべながら後の少女に視線を移した。

「こんにちは、デュオさん。今日はお邪魔します」
 
褐色の肌にウェーブのかかった緑の髪が特徴的な緑色の法衣を着た少女。

彼女もまたメイファと同じフォマールであった。
少女は何度も頭を下げた。
青髪の青年。デュオは苦笑した。

「ジュエルさん。そんなにかしこまらなくても大丈夫ですよ」
 
デュオの言葉にジュエルは微笑んだ。

「ジュエル、帰ってきたのか?」
 
奥から聞き慣れた声音が聞こえてきた。

「うんっ!」
 
三人は揃ってリビングへと向かった。

「お帰り、ジュエル」
 
ジュエルに声をかけたのはワインレッド色の髪をデュオと同じくポニーテールにしている精悍な顔つきの男だった。

「ジャンクさん、ただいまです」
 
メイファも声をかけた。

「お帰りなさい」
 
ジャンクは視線を目の前のディスプレイに注ぎながら答えた。

「パパ、何見ているの?」
 
ジュエルは興味津々でディスプレイを覗き込んだ。

「剣?」
 
それは何の装飾も施されていない無骨な剣だった。
形状は古代の剣アンシェントセイバーに酷似している。

「これって、デュオさんの資料で・・・・」
「これは《マガツツカノツルギ》です。ヒューマー及びハニュエールが装備可能なレアアイテムと最近噂されている物ですよ。メイファさん」
 
デュオとジャンクはここではヒューマーとして生計を立てていた。
噂を聞きつけた顔見知りの自称レアハンターから調査を頼まれたジャンクは完全オフだったデュオに頼んで調べてもらっていたのだった。
 
デュオの家。
特にリビングには所狭しと今では貴重な紙の本が置かれていた。
その殆どがデュオ以外の三人には解らない文字で書かれていた。

「とりあえず即席で調べられるのはここまでですね。後は本格的に調べないと・・・・」
「ああ、とりあえずこれ位で良いだろう。すまないな、デュオ」
 
ジャンクの言葉にデュオは微苦笑を浮かべた。

「でも、本当に気を付けて下さいよ。新興地下犯罪組織『闇の爪』もこのレアイテムを狙っているって聞きます。彼奴等は毒蛇みたいにしつこいですから・・・・・」
「爪ね・・・・・解った。気を付けるよ」
 
ジャンクは何かを思い出すように微苦笑を浮かべた。

「さて、お二人ともそろそろ用事を済ませないと?」
 
デュオの言葉にメイファとジュエルは頷いた。
 
メイファとジュエルは日頃お世話になっている人達に自分達なりのやり方で恩返ししようと相談し合った結果、自分達の手料理を御馳走させてあげようと考えた。
 
そして、食材を求めに惑星ラグオルへと降りたのが二時間前。
メイファの両脇にはハンター達にとっては馴染み深いモノが抱えられていた。

「あれ食えるのか?」
 
ジャンクはゲンナリした様子で訊ねた。
デュオはその姿に微苦笑を浮かべた。
 
二人の目の前に無造作に置かれたのは惑星ラグオルアルティメット洞窟エリアに生息するオプリリーと呼ばれている雑食性の巨大植物だった。
 
その爬虫類を連想させる口からは即死系テクニックであるメギドを吐く。オプリリ−はメギドによって死んだ者の屍を喰らう性質を持っていた。

「充分、食べられますよ。血抜きとあく抜きをしたオプリリーを乾燥させて粉々に砕いたモノは
高級漢方薬として重宝されているのですよ」
「本当かよ・・・・」
「ええっと、確か、ヤッズーと言う名前だったはずです。政府高官のご婦人方には人気あるんですよ? 滋養強壮と美肌に効くって・・・・」
「全く、アレを初めて食った奴の気が知れないよ・・・・・」
「ですね」
 
デュオは微苦笑を浮かべた。
 
二人が会話している間にメイファはテキパキと刈り取ってきたオプリリー達を見事な手並みで血抜きをしていった。

「そういや、、最近ジュエルの奴、お菓子作りにハマっているんだが」
「そうなんですか? 前に少し作り方を教えてあげたんですがどうですか? お味の方は?」
 
ある事件をきっかけにパイオニア2中の料理人を震撼させたジュエルは何処の料理教室からも入学拒否されてしまっていた。
それを不憫に思ったデュオはジュエルに定期的に料理を教え始めていた。
 
デュオは三千五百年以上も生きている《古吸血鬼》だった。
それ故、気の遠くなる人生をおくっている内に自然とプロ顔負けの料理の腕を持つようになっていったのは極自然の成り行きと言えた。

「刺さったよ・・・・」
 
ジャンクは重い溜息を吐いた。

「偶然、落としてしまったクッキーが床に刺さったんだ。それはもうサクッとな・・・・」
「うはぁ・・・でも、食べたのでしょう?」
「ああ、奥歯の一部が欠けただけですんだのは奇跡だったよ・・・・・」
「そ、そうですね・・・・」
 
デュオは何気なくキッチンで悪戦苦闘する二人を見た。
二人は血抜きとあく抜きを終えたらしく本格的な調理に移っていた。

「ああ、ジュエルちゃん、それは消毒用アルコールだって!」
「でも、調理用のお酒って全部使っちゃったし・・・・それに、同じアルコールなんだから大丈夫だよ」
「それもそうね」
 
二人の楽しくもおぞましい会話を聞いたデュオとジャンクは戦慄した。

「おい、バッくれるか?」
「出来ますか?」
 
デュオは諦めに近い感想を呟いた。
メイファの顔は本当に楽しそうだった。
天涯孤独だった自分を救ってくれたデュオは彼女にとって全てを捧げる価値のある男だった。
 
もちろんデュオを想って毎日三食料理を作ってくれるのだが――――。

「メイファさんの料理。動くんですよ。何かが・・・・」
「本当か?」
 
ジャンクはデュオの訊ねた。

「はい。味はまぁまぁ何ですが、見た目が、最悪なんですよ。見ただけで卒倒しそうになる料理って見たことありますか?」
 
ジャンクは身震いした。
キッチンで愛娘の楽しそうな顔がなければ直ぐさまこの場から立ち去っていただろう。

「今日は何個持ってきたんですか?」
「十個だ」
 
ジャンクが持ってきたのは即死防止用アイテムであるスケープドールと呼ばれるアイテムだった。
 
ジュエルの手料理を食べる際には五個以上のストックが必要な必須アイテムだった。
 
二人が顔を見合わせ溜息をついた時、キッチンからメイファとジュエルが出てきた。

「はい、お待たせ。私とジュエルちゃん特製スタミナスープよ」
 
デュオとジャンクの前に置かれたスープを見て二人は呻いた。

「野菜スープだよな?」
「そのはずですけど?」
 
焦茶色のスープの中で緑色の何かがゾロリと蠢いたのを
二人は見逃さなかった。

「さっ、早く食べて、パパ」
 
ジュエルの絆創膏だらけの指を見ながらジャンクは覚悟を決めた。
ジャンクはスプーンで恐る恐るスープを一口飲んだ。
飲んだ直後にスケープドールが二個連続で砕けた。

(こいつは洒落にならん・・・・・)
「これは独創的なお味ですね」
 
デュオの感想にジャンクは秘かに親指を立てた。
二人を傷つけないためには最も適した感想だった。

「良かった。あっちにたくさんあるから遠慮せずに食べてね」
 
メイファが明るく答えるのと同時にデュオとジャンクは凍りついてしまった。
 
二人の視線の先にある大鍋から何とも言えない臭いがこちらに漂ってきている。しかも、ガンガンと鍋の中で何かが壁に激しく激突していた。

「なぁ、デュオ? こんなに独創的な料理を二人締めって訳にはいかないよな?」
「そうですね。他の皆さんにもお裾分けしませんとね?」
 
二人の言葉にジュエルとメイファは手を繋いで嬉しそうに飛び跳ねた。

これから確実に訪れるであろう大惨事に胸を痛めつつも二人は必死にメールを送り始めるのだった・・・・。

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−あとがき−
 
如何でしたでしょうか?
PSO〜クリティカル・クッキング〜でした。
 
毎度のことですが誤字脱字があったらスミマセン。
 
この後、どの様な惨事が繰り広げられるかはこれを読んだ方々のご想像にお任せします。(←決して悪意は御座いません)
 
さて、文中で書かれていた《マガツツカノツルギ》は完全なオリジナルのレアアイテムです。
真に受けないで下さい。(←お節介ですね)
 
これは一種のネタ提供です。
こちらで作品を作っても良いのですがネタの引き出しの中にでもしまっていて下さい。
 
想像を絶する内容になってしまい、大変、申し訳ありませんでした。
 
では、ここまでご愛読して下さって有り難う御座いました。

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