PSO〜子犬と悪魔〜 |
片桐 / 著 |
| 惑星間航行船団パイオニア2本船内には複数の地下街が設置されている。 その内の一つ。ロンタウンと呼ばれる中華街を連想させるその地下街の大通りをデュオはイライラしながら歩いていた。 金髪をポニーテールにした白いヒューマースーツという姿のデュオはここパイオニア2内でヒューマーと呼ばれる職業に就いていた。 非合法の依頼をつい先程ばかり蹴ってきたばかりであった。 依頼主に罵詈雑言を言われ、表面上はは冷静を装っていたデュオだったが内心でははらわた煮えくり返っていた。 「オラッ、待てよ!」 一人のボロマントを纏った少女がデュオにぶつかった。 フードで覆われて顔は見えないが、少女はデュオに向かって何度も頭を下げるとその場を立ち去ろうとしたが、直ぐさま追いかけてきたいかにもゴロツキ風の男達に捕まってしまった。 「ボスがお待ちなんだから、さっさと来いよっ!」 デュオは無言でその場を立ち去ろうとした。 ロンタウンは色と欲と金が交差する街。 非合法に売られた少女娼婦が過酷な仕事から娼館を逃げ出すが追いかけてきた女衒に捕まり更に過酷な労働を強いられる。 この街ではよく見かける光景であり、いちいち相手にしていたらこちらの身が保たない。 「ヘンッ、こんな小娘がボスのお気に入りとはな・・・」 デュオは何気なく少女の顔を見た。 次の瞬間にはデュオの身体は勝手に動いていた。 気がつくと少女を追いかけてきた男達は全員昏倒していた。 (何をやっているんだ、私は・・・・) 自分自身の行動に驚きながらも、デュオは直ぐさま黙って少女の手を引くと、近くのモーテルへと逃げ込んだ。 部屋に入ったデュオはススだらけで小汚い少女に向かって、シャワーを浴びて綺麗にして下さい、と言い放つとソファに座り込んだ。 数分してから少女はシャワー室から出てきた。 少女は凛とした瞳と少女らしい可愛らしさが見事に同居した美少女だった。 その美少女がバスタオルも巻かずに全身を震わせながら全裸でこちらをジッと見つめていた。 「何もしませんよ」 デュオは微苦笑を浮かべた。 しばらくすると流石に身体が冷えたのか少女が服を着始めた。 着替え終えた少女の服を見てデュオは初めて目の前の少女がフォマールと呼ばれる自分と同じハンターの一人だと判った。 少女はデュオの向かいのソファに座るとそのまま俯いてしまった。 「名前は何ですか? それ位だったら聞いても差し支えはないでしょう?」 少女は答えなかった。 「私の名前はデュオ。ここでヒュ−マーをしています」 そう言って微笑んだ。デュオはなるべく優しく微笑んだつもりだった。 「・・・・・・・・メイファ」 少女が静かに答えた。 「メイファ?まさか、あのロンファミリーの一人娘のメイファ?」 デュオの言葉にメイファは黙って首肯した。 「何てこった・・・・」 デュオは天を仰いだ。 ロンファミリーは表向きはパイオニア2内でも有数の実業家だが裏ではかなりの勢力を誇る闇組織だった。 組織内の内部抗争に敗れて当時のボスで好漢として慕われていたヤンフェイは妻と娘と共に凶弾に倒れたとデュオは聞いていた。 「ってことはあの男達のボスはハンジャイの野郎ですか・・・・」 ハンジャイとは内部抗争でヤンフェイに勝利して組織の新しいボスとなったヤンジェイの一人息子だった。そのヤンジェイもボスになってから数日後に何者かに暗殺されていた。現在、ロンファミリーはハンジャイの私物と化していた。そして、つい数時間前にデュオを追い返した人物だった。 「・・・・・・・・・ゴメンナサイ」 「えっ?」 メイファは静かに口を開いた。 「私が貴方にぶつかってしまったせいで・・・・」 「もう良いんですよ。貴方を助けたのは私の勝手な意思。それで充分じゃないですか?」 メイファは、デュオさん、と感極まったように呟きそして続けた。 「私、あの男に言われたんです。お前には特殊な力があるから俺の女になれって・・・ それで私は必死に逃げ出して・・・・」 少女の声に混じるようにして軽い嗚咽が聞こえてきた。 「特殊な力?」 「あの男は『空識者』と呼んでいました」 デュオは思わず立ち上がった。 「まさか、こんな子が・・・メイファさん、幼い頃に遺伝子関係の疾病を患ったことありませんか?」 心当たりがあるのか、メイファは首肯した。 「・・・『空識者』とは本来『空間認識変換操者』と言います。空間や時にいたるこの世に存在する全てモノが持っている自己を決定づける個体情報を集合体である『イデア』に物理的に干渉できる人々のことですよ。 そして、この能力を使える人の殆どが幼い頃に遺伝子関係の病気を患っているんです」 メイファはデュオの話を話半分で聞いていた。 正直、何を言っているのかさっぱり判らなかった。 「これを見ていて下さい」 デュオはメイファの目の前に一本のドライフラワーを差し出した。 「百聞は一見にしかならず、ですよ」 デュオの言葉と共にドライフラワーが元の瑞々しい生花に戻っていった。 「これが・・・?」 デュオが頷こうとした時、部屋の出入り口から派手な銃声が響いた。 「クッ、早いなっ!!」 メイファを突き飛ばした瞬間、デュオは腹部に激しい痛みを感じた。 直ぐに銃撃されたのだと判った。 腹部に複数の弾痕と止め止めもなく流れ出る血を見てデュオは唇を噛んだ。 「デュオさんっ!!」 「伏せていなさいっ!!」 「俺の女をモーテルに連れ込んだのはクソヒューマーのデュオじゃねぇか」 目の前に現れた実弾式ショットガンを構える一人の男を見てデュオは呻いた。 「ハンジャイ・・・」 「泥棒猫は死んどけぇ!!」 赤い髪を左右に分けたロンゲの軽薄そうな優男のハンジャイの言葉と共に部下達が一斉に構えていた銃の引き金を引いた。 とっさに両腕で頭部を庇ったデュオは身体におびただしい銃弾を喰らいながらその衝撃で部屋の窓を突き破りモーテルの外へと落ちていった。 「行くぞっ!!お前は誰の女かってこと、俺がみっちりと仕込んでやるからなぁ!!」 「イヤァァァァァッ!!デュオさんっ!!デュオさんっ!!」 泣き叫びながらメイファはハンジャイ達に連れて行かれた。 (野郎・・・・・) 地面に激突して血溜まりの中に横たわるデュオの身体に不思議な現象が起き始めた。 流れ出ていたデュオの血が急にデュオの身体に戻り始めたかと思えば、デュオの全身を黒い繭のようなモノが包み込んだ。 しばらくして黒い繭を突き破るようにして黒い何かが飛翔した。 帰りの車中でハンジャイは上機嫌だった。 目障りなメイファの実父であるヤンフェイと自分の実父であるヤンジェイが死にロンファミリー全体を傘下においたことでハンジャイのロンタウン内における地位は確立されたようなものだった。 「オラッ、ジッとしてなっ!!」 ジタバタと暴れるメイファを組み敷こうとハンジャイは躍起になっていた。 メイファのことは前々から自分の女にしてやろうと虎視眈々と狙っていた。 ヤンフェイが上手く偽装したせいで発見が遅れ苦労したが今は満足していた。偶然知ってしまったメイファの『能力』についてはハンジャイはどうでも良かった。 「お前は俺のモンになるんだよっ!! 可愛がってやるから大人しくしなっ!!」 ハンジャイはそう言うとメイファの右頬を思いっきり殴りつけた。 メイファの抵抗はそれで止んだ。 「初めからそうしてな」 ハンジャイがメイファの赤と白の法衣を乱暴に引きちぎった。 露わになったメイファの未発達な胸を嘗めようとした瞬間、車全体を縦揺れが襲った。 「な、何だ?」 ハンジャイは狼狽えたがメイファには何となく判った。 「デュオさん・・・」 メイファの両眼から涙がこぼれ落ちると同時に何かが車の天井を突き破った。 それは真っ黒な右腕だった。 右腕はそのままメイファの右腕を掴むとそのままメイファを車外へと持ち上げた。 「何だ。いい眺めだな。俺を誘っているのか?」 両腕で抱き上げながらデュオはメイファの胸を見て呵々と笑った。 「デュオさん、その姿は?」 「俺の本当の姿さ」 踵の辺りまで長く伸びた金髪。 真紅の両眼。 雪のように白い肌とは対照的な漆黒のロングコート。 背中には巨大な悪魔を連想させる翼が生えていた。 口調まで変わってしまっているデュオはメイファを抱えながら後へ跳躍した。 浮遊落下していると急停止した車からハンジャイとその部下達がゾロゾロと出てきた。 デュオの白い顔に亀裂のような笑みが浮かんだ。 「お前、死んだんじゃねぇのかよっ!?」 「俺は丈夫でね。あれしきの銃弾じゃ死にはしないさ」 不敵に微笑むデュオに向けて一人の部下が発砲した。 デュオは自分に向けられて放たれた銃弾を右人差し指と中指でつまむと投げ捨てた。 「化け物がっ!!」 ハンジャイの言葉と共に部下達が一斉にデュオとメイファに向けて発砲した。 「良く言われるよ。化け物ってのは事実だしな」 デュオはメイファを乱暴に降ろすと迫り来る無数の銃弾に向けて右手をかざした。 「無駄だ」 デュオに向かって放たれた無数の銃弾の速度が徐々に遅くなりデュオの目の前で全ての銃弾が空中で完全に停止していた。 人智の範疇を越えたその光景にハンジャイとその部下達は茫然となってしまっていた。 「これが『空識者』ですか?」 「そうだ。お前も持っている力だ」 デュオはハンジャイ達に向かって残酷に微笑んだ。 「返すぜ」 空中で停止していた無数の銃弾が一斉にハンジャイと部下達に襲いかかった。 ハンジャイと部下達が銃弾を受けてまるで海老のように路上を跳ねていた。 デュオはその光景を嬉しそうに見つめていた。 「天罰覿面だな、ハンジャイ・・・」 デュオは瀕死のハンジャイにそっと歩み寄った。 その後にはメイファがハンジャイを憎々しげに見下ろしていた。 「メイファ、こいつをどうするかはお前が決めろ」 デュオは落ちていた拳銃をメイファに手渡した。 メイファは震える手つきでハンジャイに銃を向けた。 必死に許しを請うハンジャイはあっさり組織を乗っ取るためにヤンフェイと実父であるヤンジェイを殺害したことを認めた。 ハンジャイを睨み付けるメイファだったが、やがて、そっと静かに銃を降ろした。 「この男を殺してもお父様とお母様が戻ってくるわけじゃない・・・・・」 デュオは満足そうに微笑みメイファから銃を取り上げると優しく呟いた。 「お前はそれで良い」 メイファはデュオの胸に顔を埋めると嗚咽を漏らした。 近付いてくるサイレンの音を無視してデュオは泣き続けるメイファを優しく抱きした。 その後、ハンジャイはヤンフェイと実父殺しの容疑で逮捕され、それをきっかけに次々と組織の幹部も逮捕されてしまいロンファミリーは事実上瓦解してしまった。 メイファは公式記録上では死亡扱いされているためデュオは新たに自分の従姉妹という戸籍を用意すると同時にメイファを居候として招き入れた。 自分の正体を知って恐怖するものとばかり思っていたデュオはメイファの「怖くない」の一言に驚かされた。 「だって、デュオさんの瞳は優しいから・・・・」 顔を赤らめて言うメイファ。 デュオはその真意に全く気付いていなかった。 「私、嬉しいです。全てを失ったのにデュオさんは私に全てを与えてくれました。私はそれだけで幸せなんです」 「メイファ・・・・」 感無量のあまりデュオの涙腺はゆるんでいた。 「デュオさん、これからよろしくお願いします」 右手を差し出すメイファに対してデュオは優しく微笑むと彼女の右頬に軽くキスした。 目を丸くして驚くメイファの姿にデュオは微苦笑を浮かべるのだった・・・・。 |
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| お楽しみ頂けたでしょうか? PSO〜子犬と悪魔〜でした。 何時もの如く誤字脱字があったらスミマセン。 今回の話はデュオとメイファの出会い編です。 これからしばらくは二人を中心としたドタバタラヴコメ系になるかも知れません。 その時はご容赦下さい。 今回は以前のお話していたように古吸血鬼(ロードヴァンパイア)についての大まかな設定をご紹介したいと思います。 ・古吸血鬼の起源 詳細不明 ・古吸血鬼と一般的な吸血鬼との違い 外見上の大差はなし。しかし、古吸血鬼が完全な不老に対して 一般的な吸血鬼は僅かだが徐々に老化していく決定的な違いがある また、戦闘能力に関しても決定的な違いがある。 古吸血鬼は一般的な吸血鬼とは違い『空識者』の力を行使すること が出来る。 その為、古吸血鬼は一般的な吸血鬼の約五十倍の戦闘能力を秘めて いると考えられている。また吸血鬼の弱点とされている十字架、 ニンニク、聖水、太陽の光等と言ったものの殆どが古吸血鬼側が 故意に流したデマである。古吸血鬼にはこれと言った弱点がなく 物理的に叩き潰すしか方法はない。 ・古吸血鬼と『空識者』 『空識者』は本来は『空間認識変換能力者』と呼ぶ。 この能力を簡単簡潔に説明すると私達は空間を含む全てのモノに 対して『私は〜だ』と言う個体情報を含んだ特殊な波動を放射して いる。『私は〜だ』と言う波動を受け取った全てのモノは『お前は 〜だ』と言う波動を私達に向けて放射し私達はその波動を受け取る ことによって『私は〜だ』と言う認識を自らの存在を確立すること が出来る。『空識者』はこの波動のキャッチボールのボールに あたる部分である『私は〜だ』や『お前は〜だ』と言う波動を任意 に変換し操ることが可能である。 劇中でデュオに襲いかかった無数の弾丸が空中で一斉に停止したの は弾丸が発する『真っ直ぐ直進して敵を射抜く』と言う波動を 『いいや、弾丸は敵の目の前で停止する』と言う波動にすり替えた ために起きた現象である。 極一部には先天的な遺伝子疾病を代償にこの能力を使用出来る人間 もいる。 ・古吸血鬼と食事 古吸血鬼限らず吸血鬼全般は通常の人間と同じ食事を摂取する ことは可能である。 しかし、栄養素を殆ど吸収することが出来ない。補えない栄養素を 補充するために吸血鬼達は人間に対して吸血行為を行い足りない 栄養素を補う。また、古吸血鬼は半永久的に新陳代謝を繰り返す ために一般的な吸血鬼の数倍は吸血衝動が激しい。薬である程度 抑制できるものの一カ月に一週間ペースで訪れるその衝動はとても 理性で抑えられるものではない。 デュオはイリアを失って以来、吸血行為はしていないため今でも 一カ月に一週間のペースで来る凄まじい吸血衝動の地獄の苦しみに 堪えている。その苦しみは人間が一年間禁欲するのと同じ苦しみで ある。 ・古吸血鬼と種の保存本能 基本的には皆無。不老を手にしたための代償であり性欲が全くない ために素っ裸で迫らない限りまず相手にされない。 一般的な吸血鬼は気に入った人間に対して吸血行為を行うことに よってその人間を吸血鬼化させ自らの血族を増やすのが主流だが、 古吸血鬼は『イモータル』と呼ばれる吸血鬼に対してある種の耐性 を持つ人間の異性を生涯を賭けて探しだし、自分の伴侶としてから はその人間以外から吸血行為は一切行わない。 古吸血鬼は吸血行為ではなく人間とのセックスによって子孫を 増やすのが主流。一般的な吸血鬼とは全く逆なのである。 以上が古吸血鬼に関する大まかな設定です。 ちなみにこの設定は私の吸血鬼に関する超主観が入っているために完全なオリジナルとなっています。 この文章をそのまま鵜呑みにしないで下さい(←言わなくても判っているとは思いますけど)。 ここまでご愛読して下さって有り難う御座いました。 それでは新作を楽しみにしていて下さい。 ではw |