PSO〜パラダイス675〜

片桐 / 著



前の作品へ

次の作品へ

惑星間移民航行船団パイオニア2が従える随伴艦の一つにそれはあった。

パイオニア・アミューズメント・パラダイス・エリア。
通称PAPAと呼ばれる広大な一大レジャー施設群だ。
 
主にパイオニア2に住む人々のストレス発散の場として建造されたこの施設群はおよそレジャーと呼ばれる施設の全てを兼ね揃えていた。
 
「良くここの招待状を手に入れたな・・・・それもこれだけの人数を・・・」
 
呆れたように呟いた男の名はジャンク。
パイオニア2内でヒューマーと呼ばれるハンターの一人だ。
そして、ジャンクの言葉に賛同するように複数の男女が頷いた。
 
彼等は普段、第六随伴艦第七ブロック五階層内に開かれているカフェ。その名も『カフェ675』の常連達だ。
一流のハンターである彼等もこの場所に来ることは通常出来ない。
それはここがPAPA内でもこの場所がちょっと特別な場所だからだ。
 
「ちょっとしたアルバイトで貰ったんですよ」
 
ジャンクの後から声をかけてきたのはジャンクと良く似た姿のヒューマーだった。
名をデュオと言った。何処か刹那的で儚げな雰囲気のする男だ。
 
照りつける人工太陽の陽射しを受けてデュオの顔は半ば青ざめていた。
 
青ざめる理由は簡単だ。彼は太古から生きる吸血鬼だからである。

「こんな所で道草を食っているわけには!浜が私を呼んでいるの!」
 
二人を押しのけ猛然とダッシュする一人のハニュエール。
名をミントと言った。カフェ内でも色々と有名な人物だ。
 
ミントの声に反応するかのように皆が駆けだした。

「何か取り残されたな・・・」
 
ジャンクの言葉にデュオが、はい、と口を開いた。
 
頭を掻きながらデュオとジャンクは皆の向かった先へと歩いて行った。
 
パイオニアプライベートビーチ。

一同が向かった先は行政府関係者もしくはプラチナチケット化している招待券が無ければ入ることはおろか近付くだけでも逮捕されかねない人工海岸だ。
 
手早く水着に着替えたデュオとジャンクは一同が集まっている場所へと向かった。

既に水着に着替え終わり、ビーチボール、スイカ、パラソル、など完全武装だ。

「どう、この私は?」
 
ポーズをつけて自己主張しているのはミント。
彼女が着ているのは濃紺のビキニ。
整った鼻梁と濃紺のビキニとのコントラストが絶妙の彼女に熱っぽい視線を送るギャラリーも少なくない。
 
しかし、675メンバーの反応は極めて冷静だった。

「・・・・・・・・ハンッ」
「誰っ!」
「あらま、品粗な身体だこと」
 
ミントの背後で甲高い声音が響いた。
ミントが振り返るとそこには一人のハニュエールがたたずんでいた。
名をジュンと言う。顔立ちは幼いが彼女のボディラインはむしろ対照的に凶悪だった。水着もミントとは逆の黄色のビキニだ。

「やっぱり浜の女王は私ね。そんな品粗な身体じゃ・・・・」
「何を〜〜そんな青臭い顔じゃ、誰も寄りつかないわよ〜〜」
 
互いに気にしていることを指摘され、ミントとジュンは額を突き合わせながら激しく睨み合った。

『お気になさることはありません。マスター』
 
抑揚のない機械音声が二人の耳に入った。
女性型アンドロイド、ヒューキャシールのアオリはミント三姉妹のメイドである。

『例えマスターのスリーサイズが平均以下とは言えそのテの趣向をお持ちの殿方にはむしろ好印象を・・・・・・』
 
言葉の半ばでミントはアオリを担ぐと遙か後方へと投げ飛ばした。

「ハァハァ・・・・・良いわ。勝負しましょ!」
「受けてたつわ。どちらがどれだけ多くの男を引っかけられるかで勝負よ」
 
二人は鼻息も荒くノシノシと大股で歩きながら人混みの中へと消えて行った。

「まぁ、良いですか・・・」
 
デュオの言葉に一同が頷いた。

「パパ・・・・」
 
いきなりジャンクの手を握ったのはジャンクの娘でフォマールのジュエルだった。
 
何故かバスタオルを身体に巻き付けていた。

「どうした?何で、バスタオルなんか・・・?」
「だって恥ずかしい・・・・キャッ」
 
褐色の肌を持つジュエルの肩から逆に白い腕が彼女の身体に触れた。

「もったいないニャン♪」
 
ジュエルを後から抱きしめているのはピンクのお団子頭が特徴的なハニュエールのファラだった。ファラは迷うことなくジュエルのうなじに甘噛み。

「ヒャン」
 
ジュエルの意識が一瞬ファラに移った。
その瞬間を見逃さなかったヒューキャストが一人。
青いフォルムのデスは一気にバスタオルを剥いだ。

「おおう。似合う。正に浜辺に開花した南国の花」
 
ジュエルが着ている水着は純白のワンピースタイプ。
褐色の肌と対照的な白いワンピースが映えてジュエルの魅力を必要以上に引き出していた。
 
興奮するデスの反応にデュオは思わずジャンクを見た。
ジャンクは一見冷静な顔をしていたがその手が堅く握られていることをデュオは見逃さなかった。

「悪気はないんですからね。ね、ヨーコさん?」
 
デュオとフォニュエールのヨーコはジャンクを落ち着かせようと必死だ。

『お待たせ』
 
一同の前に現れたのは黄色いカラーのヒューキャシールのマイクロセブンだ。

「アンドロイド専用の耐水皮膜装甲を塗ってあげたから思いっきり遊べるわよ」
 
どうやら、デスとマイクロセブンはメカフェチで有名なハニュエールのデジが開発した軟膏型の耐水皮膜装甲を全身に塗ってもらったらしい。

「これで・・・・ヤンッ」
 
デジの言葉を遮って何者かが覆い被さってきたのだ。
確認するまでもない。彼女に熱愛中のファラだ。

「デジちゃん。おソロのエメラルド色のビキニ、似合うニャン♪さぁ、行こうニャン♪」
「ど、何処へ行くのよ〜〜」
 
見かけよりもずっと力の強いファラはデジをお姫様抱っこで抱えながら人混みの中へと消えて行った。

「さっ、私達も遊びましょうか?」
 
二人を生温い目で見送りつつデュオの言葉を皮切りに一同が解散した。
 
デスとマイクロセブンは耐水皮膜装甲の恩恵を受けて今はジュエルと共にビーチバレーで遊んでいた。
ジュエルはともかくアンドロイド二人のはしゃぎようは常軌を逸しているように見えた。よほど嬉しかったのだろう。
 
ジャンクは直ぐさまビーチチェアーに座ると人工太陽相手にヤキに入っていた。
 
675カフェのマスターはビーチに仮設のカフェを開いて商売に励んでいた。何とも商魂たくましいヒューキャストだ。
その横でヨーコが臨時のウエイトレスとして働いていた。
青いワンピースにふりふりエプロンが妙にマッチしてて客入りは上々だ。
 
皆が思い思いに楽しんでいる中、デュオはパラソルの下で人混みを見つめながら呆けていた。

「何、呆けているの?」
 
いきなりデュオの目の前に立ったのはハニュエールのアイだった。
彼女はその性格を現すかのように赤色のビキニを着ていた。

「アイさん?」
「全く誘った本人がそれじゃ、意味無いですよ?」
「そうですか?私は紫外線が苦手で・・・・」
「ヌルイ意見ですね・・・」
 
アイの視線の先には滑り台の要領で下るウォータースライドに勢い良く飛び乗ってしまったために真っ逆様の格好で海岸に突っ込んでいたデスの姿があった。
海岸から突き出た両脚が何とも哀れだ。
 
デュオとアイがデスの姿に気を取られているとマイクロセブンとジュエルが何やら楽しそうに談笑しながらこちらに近付いてきた。

「デュオさんも遊びましょうよ」
 
デュオの腕を引っ張ったのはジュエル。
発展途上の胸がデュオの腕に密着した。

「あらら、モテモテですね。ジャンクに知らせてあげましょうか?」
『そうしましょう』
 
マイクロセブンは屈託のない笑みを浮かべながらアイをけしかけた。

「そ、それだけは勘弁して下さい」
 
こんな光景がジャンクの目に入ったら確実に問答無用で斬り殺されるだろう。デュオは更に顔を青くさせながら呟いた。

「じゃ、私達と遊びましょう」
 
デュオは微苦笑を浮かべるとゆっくりと立ち上がり、ほどほどに、と呟いた。
 
向こうでミントとジュンが同数の男をはべらせながら口喧嘩をしているのを横目で見ながらデュオは自分の右手を握ってはしゃぐジュエルの姿を見て苦笑した。
 
こんなのも良いかな、とデュオが悦には入ろうとした瞬間、デュオを一瞬で凍りつかせるような声音が響いた。

「デュオ〜〜良い度胸だな〜〜」
 
ジャンクはどす黒い妖気のようなモノを出しながらゆっくりとデュオに近付いてきた。

「アイさん、私はここで・・・ジュエルさん、また、後で・・・」
 
ジュエルに軽くウィンクしながらデュオは明後日の方向へと走って行った。

「デュ〜〜〜オ〜〜〜!」
 
ジャンクが鬼の形相でデュオを追いかけて行った。
アイはさりげなくジュエルの両目を両手で覆い隠した。
今のジャンクの顔をジュエルに見せるのはちと酷だった。

「残念。じゃ、遊びましょうか?」
 
アイがジュエルに微笑みながら手を引こうとした瞬間、アイの横っ腹に何者かが飛び込んできた。

「デ、デジ!?どうしたんですか?」
 
見るとデジが半泣き状態で飛びついていた。
何故か先程とは違って桃色のワンピースを着ていた。

「水着は?」
「それは・・・・」
 
いいドモるデジの背後から甲高い声音が響いた。
妖精の如く天真爛漫な笑みを浮かべながらファラが浜辺を駆けながらこちらに向かってくる。

「デジちゃ〜〜〜〜〜〜ん♪」
「はわわわわ」
 
デジは慌てながら走り去った。

「待ってニャン♪」
 
アイ達には目もくれずにファラはデジを追いかけて行った。

「ジュエルさん。マスターが呼んでいるよ」
 
続けてアイ達に声をかけてきたのはヨーコだった。

「あ、は〜〜い」
 
ジュエルはアイ達に必要以上に頭を下げながらマスターの元へと走って行った。

「仕方ない。あそこに突き刺さっている奴と遊びましょうか」
 
未だに地面に突き刺さったままのデスを見ながらアイはゆっくりと溜息をついた。
 
そんな姿を見てマイクロセブンは苦笑した。
 
アイとマイクロセブンはデスの元へと向かった頃、ジュエルはマスターの元へと到着していた。

「ジュエルさん、これで良いかい?」
「ありがとうございます☆」
「そうか。それにしても偉いな。たった一人でみんなの分の弁当を作るなんて・・・・」
 
マスターの視線の先にはヨーコが息を切らしながら運んできた弁当が山のように積まれていた。
 
その全てがジュエルの手作り弁当であった。
皆をビックリさせようとジュエルがマスターとアオリの協力の下でカフェ675の厨房でこっそり作っていたのだ。
 
マスターは悪戦苦闘しながらも一生懸命料理をしているジュエルの姿を温かく見守っていたのだ。
しかし、マスターは知らない。
彼女の手料理がある意味フォトンブラストクラスの破壊力を秘めていることに。

「喜んでくれるかな・・・?」
「当然。あれだけの努力の結晶をみんなが不味いなんて言うわけないよ」
 
マスターの声音は優しかった。
それだけで彼が微笑んでいるのだと判る。

「さぁ、もうすぐお昼だ。みんなを呼んでくると良いよ。昼からの開店のために私は一足先にカフェに戻っているから」
「あの、厨房貸してくれてありがとうございました」
 
ジュエルの言葉にマスターは軽く挨拶しながら答えた。
ジュエルはマスターが人混みの中に消えるまで何度も頭を下げていた。

「えへへへへ。みんな、喜んでくれると良いな・・・・・」
 
ジュエルは天真爛漫な笑みを浮かべながら手作り弁当のことをビックリさせようと皆の元へと走って行った。
 
PAPAの人工太陽が無垢に爛々と輝いていた・・・・・。

head.gif

−あとがき−

如何でしたでしょうか?
以前カフェの掲示板でレスさせていただきました675小説です。
出演依頼をOKして下さった皆様には多大な感謝を。
本当に有り難う御座いました。
皆様のキャラを壊すことなく書いたつもりですが恐らく壊れてます。
スミマセンでした。
誤字脱字があるかもしれませんがお楽しみ頂けたら嬉しいです。
最後にここまでご愛読して下さって有り難う御座いました。
それでは、次回作で。

入り口へ案内へ上に掲示板へ

小説 一覧へ詩 一覧へ童話 一覧へ

前の作品へ次の作品へ