GCPSO−クロウ編−〜邂逅〜 |
片桐 / 著 |
| 恒星間移民船団パイオニア2本船内の一角。 研究施設を連想させるその白い施設は数時間前から紅蓮の炎に包まれていた。 その施設内の廊下を走る三つの人影。 黒髪をポニーテールにした生き写しのように同じ顔をした三人の少年達は黒煙が巻上がる廊下を逃げるように必死に走り続けた。 「イチロウ!」 不意に右端の少年が左端の少年の名を呼んだ。 「・・・・そうだな、ジロウ」 ジロウの瞳を見て頷いたイチロウは中央で泣きじゃくる幼子を優しい瞳で見つめた。 「・・・クロウ」 「・・・イ、イチロウ兄さん・・・・・・」 幼子をクロウと呼びながらイチロウは優しくクロウの頭を撫でた。 「兄ちゃん達はこれからアイツを食い止める。その隙にお前は逃げろ。良いな?」 「逃げろ、クロウ」 イチロウとジロウの言葉に、クロウは兄達の真意を悟った。 「ダメだよ、みんなで逃げようよ! お父さんも!お母さんも! サブロウ兄さんも! シロウ兄さんも! ゴロウ兄さんも! ロクロウ兄さんも! シチロウ兄さんも! ハチロウ兄さんも! みんなアイツに勝てなかったじゃない!」 クロウの叫びに近い言葉に二人は微笑を浮かべた。 「俺達は軍部の勝手な思惑で創り出された生体兵器《ドラゴンチルドレン》だ・・・でもな、まだ能力が完全に覚醒しきっていないお前には人として生きて欲しいんだ。それが、俺達と父さんと母さんの願いでもあるんだ」 「でも――――」 クロウの言葉は途中で遮られた。 神速の速さで放ったジロウの一撃にクロウは遙か前方へと吹き飛ばされた。 「ジロウ兄さん!」 呻きながら倒れるクロウはジロウが隔壁シャッターの起動スイッチを押す姿を見た。 「ダメだ・・・・・!」 ゆっくりと隔壁シャッターが降りる。 クロウはダメージを負った腹部を押さえながら兄達の元へ歩みだした。 「クロウ、生きろ。人として・・・・・・・・」 イチロウとジロウの慈愛に満ちた別れの言葉が重なる。 「兄さん!行っちゃイヤだよぉ!!」 クロウの叫びと重厚音と共に隔壁シャッターが完全に降りた。 クロウは何度も何度も隔壁シャッターを泣き叫きながら殴り続けた。 しかし、クロウの力では隔壁シャッターはビクともしない。 「全く、アイツは・・・・・」 クロウが隔壁シャッターを殴る音を聞いてイチロウは苦笑した。 ジロウも苦笑した。 数秒して隔壁シャッターを殴る音が止んだ。 クロウの気配が次第に遠離っていく。 「・・・・・・・・来たぞ、ジロウ」 イチロウの言葉にジロウが身構えた。 黒煙の向こうに人影が見える。兄弟達を、戦い方と人としての尊厳を教えてくれた養父母を惨殺した者が悠然と黒煙の向こうで立っている。 二人はほぼ同時に疾駆。 黒煙を目眩ましに左右から一気に襲い掛かった。 「黒煙を盾にしての左右からの同時攻撃。流石は《ドラゴンチルドレン》。あらゆる感覚を強化したという話しは本当のようだな・・・・・」 黒煙の向こうからヒューキャスト特有の機械音声が流れた。 「死ねぇ!」 目の前の蒼いフォルムを持つヒューキャストの左右の死角からイチロウとジロウがそれぞれ同時に手刀を突き出した。風を斬り裂く音が廊下に響く。 だが、二人の攻撃はヒューキャストに届くことはなかった。 ヒューキャストが放ったと思われる不可視の衝撃波によって二人は手刀が当たる寸前で身体ごと弾き飛ばされたのだ。 「イチロウ!!」 空中で体勢を立て直したジロウが着地と同時に疾駆。 イチロウもそれに続いた。 「!」 ヒューキャストの右手刀を避けながら二人はヒューキャストの身体にしがみついた。 「貴様達、自爆するつもりか?」 ヒューキャストはイチロウとジロウが身体に巻き付けている流体爆薬を見て静かに呟く。 絶体絶命の危機に陥りながらもヒューキャストの声は冷静そのものだった。 「ジロウ、行くぞ!」 「ああ、イチロウ!景気良く派手に逝こうぜ!」 二人は頷き合うと微笑みながら起爆スイッチを押した。 そして、閃光が爆ぜた。 施設を出たクロウに爆音と轟音が背後から襲い掛かった。 背後から受けた爆風に吹き飛ばされながら、施設が木っ端微塵になって爆散する光景がクロウの視界に飛び込んできた。 地面を転がったクロウは、爆風が収まると同時にゆっくりと立ち上がる。 「兄さん・・・・・・・・・」 よろめきながら、クロウは爆発して粉々になった施設へと歩みだした。 クロウは夢遊病者のようにアテもなく歩き続ける。 数分間アテもなく歩き、そして、視界一杯に広がる煙の中でその姿を見た。 「貴様がクロウか?」 煙の中から蒼いフォルムのヒューキャストが姿を現した。 その姿を見た瞬間、クロウの思考は真っ白になった。 「がぁぁああああああぁぁぁぁぁ!!」 クロウはヒューキャスト目掛けて闘争本能のままに襲い掛かった。 「貴様の兄達が残してくれた命だ。今は無駄にするな」 不可視の速さで振り上げられたヒューキャストの右手刀がクロウの身体を斜めに斬り裂いた。 クロウは舞い上がる自らの鮮血を見ながらその場に崩れ落ちる。 「お、お前は・・・?」 「マサカド。俺の存在意義は『殺す』こと。軍のコンピューターにハッキングしてお前達の存在を知った。お前達は俺の存在意義を満たしてくれるには充分な相手だったよ・・・・」 「・・・・マサ、カ、ド・・・・・・」 煙の向こうへと立ち去るマサカドの姿を見つめながらクロウの意識は深い闇の中へと墜ちていった。 「・・・・ク・・・・君」 どれ程の時が経ったのか、クロウは深い闇の中で自分を呼ぶ声を聞いた。 「・・・・・ロウ・・・」 クロウはゆっくりと目を開いた。 視界に入ったのは見知らぬ白い天井。 「良かった。気が付いたんだね」 自分を心配する方向へとクロウは視線だけを向けた。 「君は二ヶ月も眠ったままだったんだ。あの傷で死なないとは流石は遺伝子工学が生み出した芸術作品《ドラゴンチルドレン》ね」 目の前にいるのは二十代前半の女性。 白銀色の髪をポニーテールにした真紅のチャイナドレスに白衣を纏った涼しげな印象を与える女性だった。 「お姉さんは・・・・?」 「ワタシのことは君が全快してから話そう。クロウ君、軍部にはワタシから話を付けておいた。公式記録では君もあの研究所も全て存在していないことになっている」 「そう、ですか・・・・・・」 女性はクロウの元へ歩み寄り、枕元に一枚の封書を置くと、そのまま一言も声を掛けることなく無言のまま部屋を出て行った。 「これは・・・・・」 封書は養父母からのものだった。 宛先は自分達《ドラゴンチルドレン》だった。 クロウは無言のまま中に入っていた一枚の便せんに目を通した。 内容は至極簡単だった。自分達の身に何か起きたらこの封書を渡す人物を頼れ、というものだった。 「お父さん、お母さん・・・・・」 自然と両眼から涙が溢れてくる。 文章の最後にはそれぞれ養父母の直筆で『人として生きろ』と書かれていた。 「・・・生きろ、か・・・お父さん、お母さん、兄さん達、ボクはこれから、どうやって生きれば良いんだ・・・・・・」 涙が頬を伝う。 便せんを千切れんばかりに強く握り締めながらクロウは静かに押し黙ったまま時を忘れて泣き続けるのであった・・・・・。 |
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− あとがき − GCPSO−クロウ編−〜邂逅〜は如何でしたでしょうか?お楽しみいただけたら幸いです。 毎度のことですが誤字、脱字の類がありましたらスミマセン。 今回の話しはクロウ自身のネタバレを中心としております。 また、クロウとマサカドの出会いの話しという側面も持っています。 僅か十四歳にしてハードな過去を持つクロウがこの先どの様な道を歩むのか?人としてどの様に生きるのか? 上手く表現できたら良いなと思っています。 ワタシ如きの稚拙な文章表現力で、ですけどねw さて、今回から毎回何らかの補足説明をしたいと思います。 今回は本文中にも出てきた《ドラゴンチルドレン》について補足説明しようと思います。 《ドラゴンチルドレン》とは恒星間移民船団パイオニア2駐留軍の内部での発言権の強化を画策した一部の軍高官と総督府官僚、そして、高官と官僚達の思惑に乗ったある科学者が『あらゆる戦時下で最高の戦果を挙げる』と言うコンセプトの計画された『ドラゴンチルドレン計画』を元に数十人の孤児達に遺伝子書き換え手術を行い、その中で唯一生き残ったゼロと呼ばれる少年(後に計画が表沙汰になることを恐れた高官達によって殺害される)の純正クローンである子供達の総称。 クロウは九番目に誕生したクローンなのでクロウと名付けられた。 《ドラゴンチルドレン》は肉体的にではなく視覚や聴覚に代表される全ての感覚を極限にまで強化されている。 また、サブロウ(本作で死亡)、ハチロウ(本作で死亡)、クロウは特別に第六感と呼ばれる霊感を強化されている。 クロウはまだ年齢が幼いために完全に《ドラゴンチルドレン》としての能力が覚醒しきれておらず、不完全な状態でいる。 現在の軍部の公式記録では『ドラゴンチルドレン計画』自体が抹消され、存在していないことになっている。 なお、《ドラゴンチルドレン》の『ドラゴン』の部分は遺伝子書き換え手術を受けた全ての孤児達に術後、左肩に龍のような痣が出現したことから《ドラゴンチルドレン》と名付けられた。 以上が《ドラゴンチルドレン》に関する簡単な補足説明です。 本当はこの倍ほどの説明があるのですがある程度省略して書かせていただきました。 何となく《ドラゴンチルドレン》がどんなものなのかを知っていただけたら幸いです。 それでは、ここまで読んで下さって本当に有り難う御座いました。 では、次回作でw |